思
「一静くんはさ、大事なものを無意識にちゃんと大事にできるよね。私は君のそういうところがすごく好きだよ」
04
「まっつん自主練してく?」
「そーね、今日はまだ早いからしていくかな」
「じゃあトスあげるから飛んでよ」
「ん。いくらでも付き合いますよ」
やる気のあるやつに求められるのは嬉しい。自分まで一緒になって熱くなれる気がする。俺も一緒になってこの空間に居れているような気がして。一人なのが嫌なわけでも、無理に群れることを好んでいるわけでもないんだけど。
「まっつんってさ、たまに俺たちのこと好きすぎてびっくりしちゃうよね」
「……なに、いきなり」
「俺たちのことすごいよく見てるし、頼めばだいたい付き合ってくれるでしょ?」
「まぁね」
置いていかれたくないから。どんどんと先に進んでいくお前たちに、その場所で一人取り残されてしまうことがないように、俺も必死になっているのだ。バレーが大好きなこいつらの中で、俺はバレーがしたい。
そうか。
ここまで考えてやっと結論が出た気がする。
「なになに何の話?俺も入れて」
「まっつんは俺のこと大好きだよねって話!」
「キモ、さすがに嫌われんぞ」
「酷いよ!」
こいつらも、きっと他の学校の奴らも、だいたいは第一にバレーボールが好きで、大切で、毎日毎日一生懸命練習して上を目指しているはずだ。自分がそこにズレを感じていた理由は一つ。俺は、バレーボールが好きだという感情が第一なわけではない。
もちろんバレーは好きだし、楽しいと思う。けれど俺がここまでしてやる理由はこいつらの中にいたいからだ。バレーに全力で、強欲に貪欲に、ひたすらがむしゃらに突き進んでいく三人が見ようとしている景色を俺も一緒に見たい。同じ感情を共有して、同じ場所に立ちたい。そのためには自分も同じようにバレーを頑張らなきゃいけない。俺のために。こいつらのために。
自覚した瞬間に、一陣の風が勢いよく後ろから通り過ぎたようにもやもやとした気持ちが吹き飛んでいって、一気にクリアになった視界と思考回路にフッと笑みを溢す。
飛鳥さんは言った。本当に大事なものがわかったら素直に言えと。きっと無意識に恋人よりも大事にしてしまっていた大きなものを、俺自身よりも早く感じ取ってしまったんじゃないかと思う。それでも何も言わず、俺のその気持ちを尊重してくれる。あの人はそういう人だ。俺にはわかる。そういうところが好きだったから。
大事なものを無意識に大事にできてるとも言ってくれていた。俺のことを俺よりもわかっているみたいに。あの人はすごいと、今更ながらに思う。いつまでも追いつけないと再確認する。
「なにいきなり笑って!」
「俺はお前みたいな馬鹿でアホでどうしようもない不器用な主将サンが大好きだなと思って」
「…え。え、なんて!?」
「自分で言ってたのにいざ言われたら照れてんじゃねーか」
「岩泉のことだって好きだよ?」
「…………ンだよきもちわりー」
「なんだよ〜俺のことも好きっしょ?」
「もちろん」
俺はバレーが好きだ。けれど、自分の全てをかけるられる程かと聞かれると、それは違うと答える。
「俺もまっつん大好き!」
「…………自分で言っといてあれだけど、男に好きとか言われるのなかなか複雑ね」
「酷いよ!受け取ってよこの愛!!」
「お前のそういうところが彼女に振られる原因だと思うぜ」
「なにさ!?みんな俺のこと嫌いなの!?」
「嫌いとは言ってないよ」
「まぁ及川が将来みんなを敵に回したらその時は応援くらいはしてやるよ」
「マッキーなんてこと言うのさ。俺がいつみんなを敵に回すって言うのさ」
「俺は応援はしねぇけどな、敵は敵だ」
「酷いよ岩ちゃん!?」
「俺は遠くから見守るくらいでやめておこうかな」
「まっつんもアッサリしすぎ!さっきの告白思い出してよ!」
俺はバレーが好きだ。けれど、自分の全てをかけるられる程かと聞かれると、それは違うと答える。じゃあなんでここに居るのか。こんなにも毎日きつい思いをして打ち込んでいるのか。
青春全部かけるなんて大それたことは、さすがに直接は言えないけれど。俺の青春を答えるとするならば、それは間違いなくこの三年間、この場所、この三人だ。
誰に勝ちたいだとか、あいつを倒したいだとか、こうなりたいだとか、そんな感情はほとんどない。
勝ちたい。少しでもこいつらと多くこの場所にいるために。目の前の相手を倒したい。こちつらともっと先へ進むために。俺たち四人で、行けるところまで。
この答えを導き出すきっかけをくれた。飛鳥さんは、今後俺のことを思い出すことはあまりないだろう。ただ、若い時に付き合っていた年下のよくわからない男。きっとそんな感じだ。
でも俺は、このかけがえのない三年間のことを思い出すたびに、この三人のことを思い出して、そして飛鳥さんも思い出すんだ。
静かに。大切な思い出として。
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