高校三年生。夏。青春真っ盛りのこの時期に、俺が本当に手にしたいものは一体なんなのか。



03



「「別れたァ!?」」

「耳元で叫ぶな」

「にしてもなんでそんないきなり?特に変わりないって言ってたじゃんよ」

「変わりがなさすぎたんだよ。お互い冷めてはいないけど、遠距離になっても続けられるようなそこまでの盛り上がりも熱もなかったってコト」

「うーん、わかるような、わからないような…?」

「ま、二週間で別れるようなクソ川に比べたらマシな理由じゃねーの」

「俺だって好きで別れてるわけじゃないんだからね!?」


最後の最後まで彼女は落ち着いていた。「一静くんには大事なものがちゃんとあるから、きっとこれからも大丈夫だよ」と、今までに見たどの笑顔よりも綺麗な顔をしてそう言った彼女は、風のようにさらさらと俺から離れていった。


「これでやっと松川も俺と同じくバレーに青春全てを捧げる男になれるわけだ」

「あと半年もないけどね」

「この半年で彼女作るとか禁止だかんな!」

「ハイハイ」


今日もいつものように、この真夏のクソ暑い体育館で滝のような汗水を流しながらボールを追いかける。ただひたすらに、がむしゃらに。余計な考え事をする余裕なんかないくらいに。

バレーが好きかと問われれば、そりゃ好きだと断言できる。けれど高校を卒業してからもやりたいかと聞かれると、それにはすぐには答えられない。このどっちとも言えない微妙な感じが、俺と彼女の関係にも似ていて少し不安になる。俺にとってバレーとは一体なんだ。残されたこの少ない時間、俺の青春は一体どこに賭ければいい?


――――――――――


「高校最後の夏休みをバレーで終える俺たち……」

「青春はバレーに捧げるって意気込んでたの自分じゃん」

「そうなんすけどネ」


今日も今日とて、怒涛の練習は続いている。対ウシワカ。対影山。いろんな感情を隠そうともせずにものすごい剣幕でザーブを打ち込む及川はバレーに対する時は普段のちゃらけた様子なんて微塵も見せない。

先程までうだうだ言っていたはずの花巻だって、コートに入ればその目は真剣で、目の前のボールから一切視線を逸らすことはない。

岩泉はいつだって全力で、俺についてこいと言わんばかりに先陣切って全てをやり切る。ここにいる誰もがこいつが俺たちのエースであると誇りを持って任せられるような、そんなプレーをする。

みんな、それぞれにバレーボールに真剣だった。


「最後、とか言いたくねーけどさ」

「言わなきゃいいじゃん」

「そういうことじゃねーの!最後まで聞きなさい」

「なになにマッキー珍しく真剣な話?」

「最後まで聞けって言われたばっかじゃねーか」


いつも通りの帰り道。駅までの短い時間をもうすでに溶け落ちそうなアイスを食いながら歩く。


「俺は高校の最後の最後までバレーに全てを捧げる覚悟なわけです」


俺はきっと卒業したらもうここまで本気でバレーをすることないだろうからさぁ。と、溶けて指を伝うアイスを舐めながら花巻は続ける。


「柄じゃねーけど。この貴重な一日一日が終わってくの、なんか寂しいよな」

「俺は花巻のそういうことを素直に言えるところがいいところだと思う」

「俺も岩ちゃんに同意」


飛鳥さんは、大事なものを大事にできる俺が好きだとよく言っていた。俺はこの三人の中にいながら、そこまで熱く語れるほどバレーが好きなのか疑問に思っているのに。

好きだ。好きだけど。けど、と思ってしまう時点でこの三人とは違う気がして、素直で純粋で眩しい花巻の言葉に俺が乗っかってはいけないような気がして、そうだねなんて容易く返事はできなかった。


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