2015年9月25日

入社して早半年。仕事にはやっと慣れてきたけど、まだまだわからないことだらけ。同期にも上司にも恵まれて、そこは本当にラッキーだと思う。

なかなか終わりの見えない容赦のない残暑で日中は嫌になるけれど、この時間にもなるとやはり少し肌寒い。暗闇に月がぽっかりと浮かんでいる仕事の帰り道、最近はこうしてゆっくりと空を見上げる余裕もなく忙しい毎日を送っていた。


『おはよう』


少し前に届いていたらしいそのメッセージに慌てて返信をした。マナーモードを解除するのを忘れていて今まで気が付かなかった。徹は今日も練習だろうか。

疲れた体をベッドに放り投げて目を瞑る。学生の頃とは何もかもが一気に変わった生活に、慣れたとはいえ急に嫌気がさすこともある。

自分が欲しいスキルを、この会社でしっかりと頑張っていけば身につけることが出来るのはわかっている。でもゆっくりコツコツなんてやっている時間は惜しい。一日でも早く目標を達成出来るようにしなければ。いつまでも彼を待たせるわけにもいかない。焦っているわけではないが、立ち止まってる暇はない。毎日それを胸にきっちりとやるべきことをこなしているし、その事にもちろん不満もない。はずだ。

けれど、知らぬ間に溜め込んでしまった自分でも気がつけないくらいの小さな小さな日常のストレスたちが、ある日突然無理やり自覚させようと襲いかかってくる日があるのだ。そういう時のモヤモヤというのはこれといった原因の特定が難しい。身に起こる全てに嫌気がさして、自分でも最早何に対してそれを抱えているのかもわからないし、この感情が怒りなのか、悲しみなのか、寂しさなのかすら定かではない。

鳴らないスマホを手に取って文章を打ち込んでいく。こんな時間に迷惑かななんて気持ちもある。こっちが疲れの溜まった一日の終わりを迎えているということは、あっちはまだ早朝なのだ。徹は先程起きたばかりだろう。気持ちの良い時間帯。新たな一日を始めようという時に、こんなにもどんよりとした感情をぶつけてしまってもいいのだろうか。

いつもは数行の短い文章を送るだけだけど、今日は抱え込んだ気持ちを余すことなく全て書いた。ただの愚痴かもしれない。仕事や人間関係や、慣れない環境のこと。

内容に目を通さずとも読むのが億劫になる長文。そこに書いてある全てが、絶対に徹には関係のないことだ。改めて送るのを躊躇いつつも、私がもし逆の立場だったら、それでも良いから軽くなるのだったら何でも言って欲しいと答えると思う。私にはわからない話でも、関係がなくても、共感できない事でも。徹も同じ気持ちかどうかはわからないけれど、それでも何もしないで抱え込むよりは良いと前に話し合ったから。送られてきて嫌なら嫌、不快なら不快だとしっかり伝えれば良い。

長い長い文章を読み返すこともなく送信ボタンを押した。きっとしっちゃかめっちゃかでとても読みにくいと思う。文の最後に「ただ誰かに聞いて欲しかっただけだから、これに対しての返信は特にいらないです」と書いたのは、この感情を勝手にぶつけてしまったことに後ろめたさを感じている逃げだ。心の中で謝りながら、そのモヤモヤに蓋をするように目蓋を腕で覆い隠した。

明日は土曜日。早朝の人の少ない新幹線にでも乗って、一度実家にでも帰ろう。


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