2021年7月28日

「うそ……アルゼンチンが勝っちゃったよ」


どこからかそんな声が聞こえた。相手は俺たちよりも確実に格上。ここ最近の大会では勝ち星をあげられたことはなかった。残念だけど今日の試合は落として、他の試合で白星を稼ぐしかない。そう思われていてもおかしくはない。


「流石にストレート勝ちなんて予想はしてなかったよな」

「このプール大波乱じゃん、これはどこが予選突破するかわからなくなってきたぞ」


弱者が強者を倒すシチュエーションは誰もが心躍るものだ。俺たちは強いという自信がある。今までで一番。それでも悔しいことに世界一じゃない。それは認める。自分たちの現状をしっかり把握しない限り成長は見込めないから、自信はあるけど慢心はしない。それでもここはどうしても勝ちたかった。

こういう、普通の世界大会ともまた違う、普段バレーにも興味のない人たちも見るような世界中を巻き込んだ大きな祭り。そこで勝つというのは大きな追い風になる。これからの俺たちにとって。


「日本と違うプールだからこっちで応援してる国はなかったけど、元日本人?選手もいるしアルゼンチン応援しようかな」

「俺も。今年の日本強いしこのまま行ったらどっかで当たるかもな」


才能開花のチャンスを掴むのは今日かもしれない。若しくは明日か明後日か来年か、30歳になってからかも。体格ばかりは何とも言えないけど、無いと思ってたら一生無い。


「あんなセッター、なんで今まで無名だったんだ?」

「今までっつーか、今も、だよな」

「もっと注目されても良いのに」

「でも時間の問題じゃね」


風景、空気、言葉。何もかもが懐かしい。この場所で、この国で、今こそがチャンスの時だと確信できることが嬉しかった。

俺の背中を押すように吹く風は、きっと今この瞬間が、これまでの中で一番強い。


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