02



「おおー!!」

「そんなに良い反応されるとちょっと恥ずかしいな」


ユニフォームが配られた。俺のチームのそれは白と黄色とでなかなかに鮮やかで明るく、俺が身に纏うには少々爽やかすぎる気がしなくもない。現に俺の加入するチームがライジンだと伝えたとき、侑は「元也くんは良いとして、角名があのフレッシュレモン似合うんか?」と口元を押さえながら笑いやがった。思い出すとあの顔は今でもちょっとイラッとする。


「せっかくだから着てみて!」

「え、今?ここで?」

「うん!……でも試合の日の方が良い?」


少しだけシュンとした様子の彼女に、「べつにどっちでも良いけど、今着るのはちょっとだけ恥ずかしいかな」と伝えると、ケロッとした顔で「じゃあ今で」と言い放った。


「……俺の話聞いてた?」

「ここで恥ずかしがってたら会場で着れなくない?」

「いやそういう意味じゃないけど」


理由も無しに貰ったその日に部屋でお披露目するのが恥ずかしいってだけだ。でも確か侑はジャッカルのユニを貰ったその日に超キメ顔の自撮りを送りつけてきたな。思い出したらムカつくくらいのドヤ顔のやつ。

早く早くとろくに話を聞かずに急かしてくるきみに、まぁ今日貰えるらしいよって数日前に伝えたときから楽しみにしててくれたしなと思いながらしぶしぶ着替えを進める。


「どう?」

「似合ってる!」

「……ほんとに言ってる?」


えっどうして?似合ってるよ?と首を傾げながら綺麗な目をこちらへと向ける彼女はどうやら本気でそう言ってくれているらしい。色んな人に角名がその色着こなせるのかよと若干馬鹿にされていたせいでその純粋な気持ちまでをも疑ってしまったことを反省する。


「これって今度ファン用の応援の時とかに着れるやつも出るよね?」

「いずれ出ると思うよ」

「そしたら私もそれ着て応援にいこ〜」

「ほんとに?それは結構嬉しい。侑に自慢するからその時は絶対写真送ってね」


なにそれ。と笑いながら、今日も記念に撮っちゃおーと俺に向けてスマホを構える彼女の手から素早くそれを奪って、もう片方の腕でグイッと体を引き寄せる。驚いた様子のきみに笑いながら合図もなしにインカメにしたそのスマホで一枚撮ると、「待って今の写真の顔絶対大変なことになってる」と慌てながらもう一枚と要求してきた。


「ユニフォーム着てるところを見れただけじゃなくて写真まで撮れちゃった」

「ずいぶん嬉しそうだね」

「うん。だって私が誰よりも先に着てるところ見たかったから」

「……そうなの?」

「あ、言っちゃった」


わがままかなぁと思って言わないで隠してたんだけどね、と笑うきみに眉をひそめて顔に力を入れる。「え、怒ってる?ごめん」。そう言った彼女を正面から抱きしめて、「ちがう耐えてるだけ……」と自分でも笑えるくらい弱々しい声で答えた。


「ははは」

「ほんと急にそういうこと言うのやめて」

「……あとね、きっと試合とかの後にファンの人と写真撮るだろうから、それも私が一番最初に一緒に写りたかったんだ」

「…………」

「だからあとで一緒に撮ろーって言おうと思ってたんだけど、そっちから来てくれたから嬉しかった」

「……待って、ほんとに今キャパオーバー」


ぎゅうぎゅうと抱きしめる力を強めながら腕の中にいるきみの頭に顔を埋める。楽しそうに笑う彼女に釣られて俺まで声を出して笑った。


「それにしても本当に黄色いねぇ」

「この黄色でみんなの前出て大丈夫かな俺」

「大丈夫だよ、私はずっと倫太郎くんに似合う色は黄色だって言ってきた」

「…………そういえば確かに」


にこにこと笑う彼女の頬にキスを落とす。今度レモンの香水とか買って来ようかなぁなんて急に言い出すから、「そういう匂い好きだったっけ?」と問えば、「私じゃなくて倫太郎くんが付けるの。フレッシュレモン」と口に手を当てて笑う。それにちょっとだけイラッとしながら「……きみも実はちょっと馬鹿にしてんだろ」と額を軽く小突く。

いつか同じユニフォームを着て俺の試合を見に来る彼女のことを楽しみにしながら、「そんなことないよホントに似合ってるってば」とケラケラ笑う小さな口を塞ぐようにゆっくりと自身の唇を押し当てた。



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