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再度電車に乗って数駅。たどり着いた先は誰もがその名を知っているであろう夢の国だった。昼過ぎから入れるパスポートを買って、賑やかな音楽の流れるゲートをくぐる。


「久しぶりに来た…!」

「俺も。何年ぶり?って感じ」

「角名くんと来るのは初めてだよね」

「うん、あんまり来ないからこういうとこ」


園内パンフレットを見ながらあれが見たい、これが乗りたい、ファストパスはあっちだと忙しなく歩き回る。

園内の愉快な音楽と、すれ違う楽しそうな人々。夢の国の魔法とはよく言ったもので、私はもちろん角名くんも心なしかいつもよりも大分テンションが高い。


「こっち帰ってきて初めて来たから結構園内変わってるね」

「去年オープンしたアトラクションすごいよ!乗ろう!」

「ははっ!めちゃくちゃはしゃいでる」

「だってまさか来れると思ってなかったし!」


別に私はここの映画やキャラクターが大好きって訳ではなく、人並みに知っているし見ているってくらいだけれど、この園内の雰囲気がすごく好きで友達と年に数回は訪れている。


「きみ、あれ」

「プリンセスだ〜!」


グリーティングの時間になるとキャラクター達が園内に現れる。人混みができている真ん中には、人気のプリンセスと王子がいた。


「写真撮ってきなよ」


ズンズンと進んでいく角名くんに腕を引かれてその輪に加わる。そわそわとプリンセスを見ていると、本当に子供みたいだと角名くんが笑うから、もうと軽く肘でつつく。そんなやりとりをしているとプリンセスが手を振ってくれて、キャストさんがどうぞ〜!と明るく呼んでくれた。

英語で話しかけてくれるプリンセス達にしどろもどろになりながら言葉を返す。その姿を面白そうに動画に収めている角名くんを見て、プリンセスがみんなで写真を撮ろうと提案してきた。


「え、俺も?」

「いいじゃん、撮ろうよ!」

「場違いじゃない?」

「そんなことないですよ〜!カメラお借りしますね」


プリンセスと王子に挟まれてはにかむ写真の中の私達は、何だか初々しい表情をしている。写真から目を離して顔を合わせると、込み上げてくる何とも言えない痒い感覚に、お互いに恥ずかしくなって笑った。

そのまま2人して気分が高まって近くのショップでカチューシャを買うことにした。これ可愛い、あっちも良いと吟味して、結局ド定番のソーサラーカチューシャを買った。カップル御用達の定番の2種類を付けて歩くのは王道すぎるかなとも思ったけれど、やはり王道と呼ばれるものは一度やってみたい気持ちもある。


「似合うよ角名くん」


意外にも結構しっくり来ちゃってるその姿に笑いが止まらなくなってカメラを回すと、一人だと恥ずかしいから2人で撮ろうとインカメにされる。角名くんの長い腕はまるで自撮り棒のようで、背景も写しながら2人でくっついて数枚写真に収めた。

人気のアトラクションに乗ったり、フォトスポットではしゃいでみたり。いつもはなかなかこういう学生らしくというか、2人してはしゃいで何かをすることが少ない私達なのでいつにもなくお互いにテンションが高い。

楽しい時間はあっという間に過ぎるもので、気づけばもう日は暮れて、昼間の様子とは一転してキラキラと輝くイルミネーションが園内をさらに幻想的に映し出した。


「見える?」

「うん!」


夜の定番のパレードを見るために場所を探す。角名くんは身長が高いからどこからでも不自由なくこういうのが見られるのが少し羨ましい。平均身長な私は人が被るとなかなか見えづらいことも多々あるけど、今は前に中学生くらいの女の子グループが居るだけなのでなんの問題もない。


「制服で来るのとか、若いって感じでいいな〜」

「きみもまだ頑張れば着れるんじゃない?いるじゃん、卒業後にあえてするやつ」

「今更制服に袖通すの結構勇気いるよ?角名くん付き合ってくれる?」

「あー…ちょっと楽しそうだなとか思うけど言われてみれば確かに勇気いるな。あと周りにバレたら茶化されそう」

「だよね」


学生の時は制服で来なかったのかと聞かれて写真フォルダを漁って高校時代に来た時の写真を見せる。すると、エッやばいこれ送ってよと勝手にLINEに貼り出すので慌ててスマホを奪い返す。

角名くんの学生時代の写真と交換しようと言うと、仕方がないなとフォルダをスクロールし、ピロンッと通知音を鳴らして写真が送られてきた。


「なにこれ、めっちゃ学生!って感じ」

「いいでしょそれ」


たまにはこういうのも良いんじゃないと部活がオフの日に行ったらしい関西の有名テーマパーク。4人で制服を着て、みんなで色違いのセサミのカチューシャを付けている。横並びに立っているだけなのにその立ち姿や表情に個性が溢れているのが面白い。

さらに追加で送られてきた写真を見ると、大きく口を開けた巨大なサメの前で、迫真の演技で逃げ出そうとする4人が写っていて思わず吹き出してしまった。何よりも噂の双子の子達が地面に倒れて、白目を向きながら手を伸ばす様は気合いが入りすぎていて役者並みだ。


「男子高校生だ〜」

「基本馬鹿だから、男子高校生なんて」

「私そんな面白い写真ないよ」

「いいんだよ、ほら、それなんてすごいJKって感じじゃん」


お互いの写真を見せあっていると音楽が切り替わる。始まりのアナウンスが流れて周りもソワソワとしだした。

次第に愉快な音楽と共にカラフルに点灯された数々のフロート達がやってくる。それに乗るキャラクター達に手を振ったり、あの仕草見た?だなんて確認し合っていると、周りの人の量と音楽の音量で自然と距離が近づいていて、気づかないうちにピッタリと寄り添っていた。

肩を引き寄せられてさらにギュッとくっつけば目と目が合う。気恥ずかしくなって前を向いてパレードを眺めるけど、魔法にかけられた今の私はいつもよりも大分積極的で、そろそろと彼の腰に片腕を回してみた。コツンと私の頭に彼の頭が寄りかかってきて、私も彼の肩に頭を寄せる。

周りの喧騒と、愉快な音楽。キャラクターたちの話す声に、キラキラと光るイルミネーション。何もかもが幻想的で、不思議な空間。周りにはたくさんの人がいるはずなのに何だかここには私達しかいないような、そんな感覚がしてドキドキした。


「綺麗だった」

「うん」


静かに夜の園内を散歩しながら、ふと隣を歩く角名くんを見上げると、黒い髪にイルミネーションの光がキラキラと反射して輝いている。


「どうかした?」

「角名くん、やっぱり綺麗だね」

「それって男側がいう台詞じゃないの」


向かい合ってお互いの両手を握る。お城の前というロケーションも何だか気持ちを盛り上げるみたいだ。しばらくそのまま佇んでいるとドンッとぶつかって来た女子高生がすみません!と謝ってきた。大丈夫ですよと返事をすれば、戸惑いがちに写真撮影を頼まれたので快く引き受けた。


「ありがとうございます。あっ、私達もお撮りしましょうか?」

「せっかくだからお願いする?」

「うん。お願いします」


スマホを差し出すとちょっとだけ設定いじりますねと操作をしたその子は、もう少しだけ右に寄ってください!もう少し!そこ!と指示を出してくれる。2人して戸惑いながらそれに従うと、撮りますよ〜!と声がかかった。


「めちゃくちゃ良い感じです!」

「ありがとうございます」

「あっ待ってください、さっき私達とぶつかる前にしてたポーズしてください!場所はそのままで!」


えっと戸惑いがちに踏み出そうとした足を引き止める。どんなだっけとオロオロしていると、キュッと私の両手を取った角名くんが目の前に立って、緩やかに口角をあげて微笑んだ。

あっ、やっぱりすごく綺麗だ。と思った瞬間に「やっぱこれ最高ですよー!」と大きな声がして、ハッと意識を戻すとスマホを掲げた女子高生達が駆け寄ってきた。


「うわ、すごい綺麗に撮れてる…」

「恐るべしJKの写真技術」


2人して感心しながらお礼をすると、こちらこそと手を振りながら女子高生達は去っていった。

花火も見て、あと少しでいよいよ閉園の時間。最後にショップに立ち寄ればそこは人が溢れかえっていた。凄いねぇなんて言いながら店内をゆっくりと見て歩くと一つのキーホルダーが目に止まる。


「可愛い〜」

「買えば?」

「でもこれペアだよ」

「一緒につける?」


手に取ったそれは昼間一緒に写真を撮ったプリンセスと王子のキーホルダーで、個々がハートの半分になっていて2つくっつけるとハート型になるようなものだった。


「………でもこれさすがに恥ずかしくない?すごい可愛いけど」

「…一緒にいる時はいいけど、一人の時結構勇気いるなって俺も今思ってた」


可愛いけど残念だと元に戻すと、「これは?」と他のキーホルダーを手に取り差し出してくる。シンプルな形状のそれは確かに付けていても違和感がない。それに今日私達が買ったカチューシャと同じものなので記念としてもいいかもしれない。

2人でレジへ持って行って会計を済ませ、さっそく外で付けてみる。お互いにスマホはシンプルなカバーのみでキーホルダーは付けていなかったので、新しく付けられたそれに珍しさを感じつつも嬉しくなった。


「キャラクターものとか、それこそ何年ぶりって感じ」

「確かに角名くんがこういうの付けてるのちょっと面白い」

「絶対周りに指摘されるよこれ」


お揃いだとかそういうのをあまり好まなそうだと付き合い始めは思っていたけれど、角名くんは意外にもノリ気になってくれる。家の鍵につけているキーホルダーは、引っ越した時に角名くんがくれたシンプルな色違いのペアのものだ。


「今度ペアルックとかしちゃう?」

「それこそ絶対からかわれる、侑とか特に」


でもわざと見せつけに行くのもいいかもなんて2人して笑って手を繋ぎながら、パークを抜けるゲートをくぐった。

クールだし基本的にちょっと冷たいけど、親しい人たちとの間では意外にもノリがいいだとか、王道なことでも嫌がらずにやってくれたりだとか、それも結構自分から進んでやってくるとか。

一緒にいないとわからないような彼の一面を見る度に、好きの気持ちがもっと大きくなる。



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