灰谷蘭が二日酔いに負けてる




ペタペタと足音を立てながらリビングへとやってきた蘭におはようと声をかけると、挨拶代わりに「お〜」なんていう随分としんどそうな声が飛んできた。

「二日酔い?昨日すごかったもんね」
「そんなに飲んだっけかー?記憶ねぇんだけど」
「記憶なくなるくらいには飲んだってことでしょ」

頭を抱えながらボスっと腰掛けた彼の前に、こんなことだろうと思って先ほど作っておいてあげたしじみ汁を出して向かいに座る。オレこれあんま好きじゃねーんだよなと言いながらも毎回しっかり飲み干してくれるから、その文句には今回も何も触れずにいておいてあげよう。

「二日酔いなんて前はなったことなかったのになぁ」
「歳じゃない?」
「コエーこと言ってんじゃねーぞ」

眉を顰め怖がるように縮こまりながらこちらを見るが、いくら顔が良くてもアラサーのデカくてゴツい男がその表情をしたって可愛いとは思えない。

「もう若い飲み方は出来ないってことだよ。これからは自分の体のことも考えなね」
「もう若くねーみたいな言い方すんなよ」

ズズっと一気に味噌汁を飲み干してだるそうに一息ついた彼は、頭痛薬どこにあったっけとこめかみを押さえギュッと目を瞑る。出しておいたよと水と共に差し出すと、パッと表情を明るくして「さっすがー」なんて言ってすぐさまそれも飲み干した。

「つーことでダリーから今から一緒に二度寝しようぜ」
「どういうことなのよ。私は別にだるくないからこれから洗濯物干すの」
「いいじゃんそんなの後で」
「ダメだよシワになっちゃう」

逃げようと立ち上がれば素早く私の腕を掴んだ蘭にそのまま腰を抱かれ、強制的に寝室の方へと引きずられる。抵抗できない力の強さに「そんなに早く動けるなら二日酔いもそんなに酷くないんじゃないの」と声を上げると、片手で口を塞がれそのまま辿り着いたベッドの上に放り投げられた。

「マジちゃんとダリーから付き合って」
「一人で寝なって」
「蘭ちゃんさみしー」
「だから可愛くないって、」

私の言葉を遮るようにしてチュッと軽く口付けた彼と至近距離で目が合う。卑しく細められたその目に負けて大人しく横たわると、「物分かりよくて好きだぜ」なんて嬉しそうにもう一度額に優しくキスをして、抱き枕のように私を抱えて横になった。

「あったまイテー。やっぱもう酒飲み過ぎんのやめるわ」
「それがいいよ」
「二日酔いなんかでナマエとセックスできねー休日とか下がるし」
「は?」
「今超そういう気分なのに動いたら吐きそー。……試してみっか?」
「絶っ対やらないからね」

だよなぁ、流石に自分のゲロまみれになんのはオレも萎えるし。なんて言ってギュッと私を抱え直して、彼はゆっくりと目を閉じた。すぐにすやすやと聞こえてくる穏やかな寝息に耳を澄まして、呆れたため息を一つ吐いて私も同じように目を瞑った。


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