酔っ払いすぎてる灰谷竜胆




「はい、ネクタイ取るから座って」

フワフワとした顔で今にも倒れてしまいそうな竜胆は、私の指示にしっかりと従って、焦点の定まらない瞳で私を見つめながらベッドサイドへと座った。そして両手を大きく上にあげる。

「ネクタイ取るだけだから別にバンザイはしなくていいよ」

ん。と短くそう言ってポスンと素直に腕を下げた彼に、「次はシャツのボタン外して脱がすからフラフラしないでね」と指示を出すと、「あい」なんて言いながらコクンと頷きそのまま首を垂れ停止する。それだと外し辛いから顔は上げてくれると助かるなと伝えれば、無言で普段の彼からは想像出来ないくらい緩んだ顔をゆっくり正面に向けた。

「次はTシャツを着ます。今度こそさっきみたいにバンザイして」

バッと勢いよく両腕を上げた上裸の竜胆の腕の先からゆっくりと服を被せ、ふらつく彼を支えながら何とか着せ終えた。スラックスを脱がせるためにベルトをガチャガチャと弄ってみるが、こういう細かい部分へのこだわりが強い彼の個性的なベルトは慣れていないとなかなか外すのに時間がかかる。

「……やっと外れた。寝っ転がって。下から引っ張るから」
「ん〜〜」

ゴロンと大の字で後ろに倒れた竜胆の足を無理やり閉じて履いているものをズルズルと抜き取る。横になったことで限界を迎えたらしい彼は、そのまま本格的に寝る体制に入ってしまった。パンツ姿のままだけど、この季節じゃまだ何かかけて寝れば寒くはないだろうし、いっか。

潔く諦めて珍しくこんなになるまで兄に無理やり飲まされたという竜胆に、私も寝るからもう少し端っこ寄ってと声をかけて、わずかに空いたスペースにそっと体を滑り込ませる。

「ナマエ、どこ」
「ここだよ。反対。左、左。こっち」

ぐるんと体をこちらへ向けて私のことを抱え込んだ竜胆は満足そうに擦り寄ってきて私の胸元に顔を埋める。するとパッと顔を上げて「あれオレ着替えたっけ」なんて目をしょぼしょぼさせながら言い出すから、笑いながら「着替えたよ」と乱れた髪の毛を整えるように頭を撫でた。

「……そっか。えらいな」
「何自分で褒めてるの。あと着替えさせたのは私ね」
「そっか。えらいな」
「ありがとー」

オレえらい、ナマエもえらい。なんてふにゃふにゃ言いながらもう一度縋り付くように引っ付いてきた竜胆の前髪をかき分けて、見えた額に小さく一つキスを落とす。

こんな姿の彼を見ることなんて年に片手で数えるほどもない。大抵のことは自分で何でもこなしてしまう器用な彼が、明日の朝不思議そうに「何でパンイチ?」と戸惑っているところに「私が着替えさせてあげたんだよ」と打ち明けて、パンイチのままその事実に頭を抱えつつ、二日酔いの頭痛に耐える様子を想像したら面白くて思わず笑ってしまった。

二人して緩んだ表情で眠りにつく。いつもよりだいぶ高い体温の彼を強く抱きしめて、漂うアルコールの匂いを感じながらそっと目を閉じた。


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