松野千冬とゆるい放課後




「次のページ」
「まって、まだここ読んでる」
「遅っ」

誰もいない教室で、千冬の膝の上に座って一緒に今日発売の漫画を読んでいる放課後。誰かに見られたらこんな暑いのによくこの体勢でいられるなぁなんて言われてしまいそうだけど、クーラーが効いているこの教室は涼しいから今は背中以外は暑くはないし、この体制が一番一緒に漫画を読むのに適している。

「捲るよ」
「ん」
「ひゃ〜〜!何この展開めっちゃ…んぐっ」

見開きの良いシーンの衝撃に思わずその場で感想を口に出そうとすると、漫画を持っていない方の空いた片手で口を塞がれた。大人しくそのままパラパラと捲られていく漫画を目で追う。たまに「もう捲っていい?」と確認してくれる千冬には首を縦か横に振って答えた。

「今月もすごい良かったねぇ〜」
「来月号早く発売しねぇかな、今すぐ読みたい」
「ほんとにね!この先の展開考えるともう泣けてきちゃう」

それはさすがに早すぎと笑いながら、私の頭をくしゃっと撫でる。そんな彼に「千冬ってさ」と声をかけながらぐっと寄り掛かるように体重をかけ背中を預けた。

「少女漫画に出てくるとしたら絶対当て馬ポジション」
「いきなりヒデェ」

頭を撫でる手を止めた千冬の顔を見上げてみる。眉をひそめてこちらを見る彼と目があった。「千冬は好きな人に好きな人がいたら、絶対相手のこと考えて身引いちゃうヤツ。絶対協力しちゃうんだよ」と言葉を続けると、「そんなんわかんねぇだろ」と頭に乗せていた手で肩をパシッと軽く叩かれた。

「自分の友達のことを好きなその健気な姿に惹かれた〜とかでさ、元から望みない出発しそうな気もする」
「最悪じゃん。まぁ漫画にはありがちなヤツだなー」
「そういうキャラは意外と主人公よりも人気があったりするよ」
「でも好きなやつとは結ばれないんだろ?」
「可哀想千冬……よしよし」
「……なんでオレが慰められてんの」

ふわふわな髪の毛を今度は私が撫でた。不服そうに口を尖らせながらも、少しだけ気持ち良さそうに目を細める姿が可愛い。すると突然ハッとしながら「ならオレはナマエとは結ばれないってこと?」と真剣な表情で聞いてくる。それが面白くてプッと笑うと、笑うなと頬を膨らませる。

「私はあれだよ、本命にフラれた千冬の前に現れる女。それか元からいた友人ポジション」
「スピンオフでそいつとくっつくやつ」
「そう。千冬が振られんの待ってるの」
「振られる前にもっとガンガン来て欲しーわ」
「ダメだよ、お淑やかにいなきゃいけないから」
「お淑やか……?」
「あと弱みにつけこむから一回傷ついてもらわないと」
「それのどこがお淑やかなんだよ」

ペシっと戯れるようにもう一度肩を叩かれ、そしてそこに頭を埋められる。私も首を傾けもふもふの千冬の頭に同じように顔を埋めた。私の膝の上に乗っていた漫画がパサっと音を立てて落ちる。それに気づいていながらもお互いに動こうとはしない。

「流石にこんだけくっついてるとあちぃな」
「んー。千冬離れて」
「そっちが先に離れて」
「私は今この体勢から動けないからー」
「オレも動けませーん」

じゃあもうしばらくこのままでいよっか。そう言って二人で暑さの限界が来るまでそのままでいた。しばらくして暑い暑いと言い合いながら離れたのに、漫画を拾って荷物をとって、昇降口までの短い距離でさえも手を繋いで歩いたからなんか笑えた。帰り道はコンビニでアイスでも買って、二人で半分こでもしようかな。


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