振り回される
1周年企画 紫さんリクエスト
*
「可愛い……!!」
目の前でキラキラと子供みたいに目を輝かせる彼女を見つめる。可愛い可愛いと語彙力のない感想を繰り返しながら、パシャパシャといろんな角度から写真を撮り続けている。そんなに撮ってもどうせSNSに載せるのなんて良くて2・3枚だろうに、一体何枚撮れば気が済むんだろう。
「月島くん、こっち向いて!」
「僕は写さなくていいから」
「何でぇ〜」
食べられるのか不安になってくるような色のケーキたちが積み上がったその向こうでミョウジが口を尖らせる。その中からマカロンを一つ手に取って、僕は写すなって今言ったはずなのにそのマカロン越しにカメラを構えた。
「……ねぇ」
「大丈夫!マカロンにピント当ててるから月島くんはぼやけてるし!」
何が大丈夫なのかは全くわからないけど、ミョウジは「可愛いマカロンと、可愛いアフタヌーンティーと、可愛い月島くん」なんてふざけたことを言いながら楽しそうにまた何枚もの写真を撮っていく。
「あ、食べ初めていいからね。月島くんケーキ好きって言ってたもんね」
「確かにショートケーキは好きだけど、こんな良くわからない色のケーキはちょっと……」
「でもついてきてくれたじゃん」
「そっちが無理矢理引っ張ってきたんでしょ」
三段に分かれた王道のアフタヌーンティー。行かない?と隣の席に座るミョウジに話しかけられた昼休み。今日は部活もオフで用事も何もなかった。今日は疲れた体をしっかり休ませるかとも思って最初は断っていたけど、ミョウジはなかなか諦めない。ねぇねぇとしつこいミョウジに痺れを切らしながら「そんなに僕とどこに行きたいわけ」と聞いてみれば、最近人気のアフタヌーンティーだと言う。……から、迷って、迷って、迷った結果、断っても何してもどうせミョウジがうるさいからと仕方なくついて来た。
流石に僕も自分からこういうところに来ようとはしないから初めての経験だ。だからちょとだけ、ほんの少しだけ楽しみにしてた気持ちがあるのは認める。男同士とか、男一人でとか、行く人もいるだろうし別に変とかではないけど僕や周りはしていないから。
一口食べてみれば、見た目のカラフルさからは想像できない甘さの控えめなクリームが口の中に広がって、そしてふわりと溶けていった。ミョウジもパクッと大きな口を開け美味しそうにスコーンを頬張る。幸せそうに絞り出した「おいしぃ〜!」と言うその声には嘘はなさそうだ。
「おいしいねぇ」
「まぁ、味はね」
「え〜?」
「味はいいけど、僕にはやっぱりこのケーキはメルヘンすぎる」
次はもっと見た目も落ち着いたやつにしてよ。そう言って最後の一欠片を口に入れると、ふふっと笑ったミョウジがジロジロとこちらを見てきた。
「…………何」
「いや?次もついてきてくれるんだーって思って」
その言葉に一瞬動きを止めた。ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべ始めたミョウジの表情が憎い。ハァとため息を吐いて額を抑えた。僕としたことが、馬鹿なことを口走ってしまった。
「そう言ってくれればいいなーと思って、今日は人気だけどすごい可愛い見た目のところをあえて選んでみました」
まさか月島くん自ら次の約束してくれるなんてなぁ〜あんなに嫌々着いてきてくれたのに〜、なんてわざとらしく言った後、「次ここ狙ってるんだ。見て、見た目もシンプルで月島くんも好きそうじゃない?」とスマホの画面をこっちに向ける。表示されたそこは確かに評判もいいホテルのものだ。僕の好みまでしっかり把握されていて断る理由が本当に無い。
「次のオフの日も教えてね」
「教えないけど」
「じゃあ山口くんにいつ休みかメッセージ送ってみよ」
「…………15日の日曜日」
うふふとわざとらしく笑う、その声が憎らしい。なのにそんなに悪い気はしない。それがまた悔しくて、僕は大きくため息を吐きながら「笑いすぎでしょ」と力なく言うことしか出来なかった。
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