恋しとは


五万打企画 cosmoさんリクエスト




「っ、大丈夫?」


ドカッと音を立ててベッドへ沈んだ。息が上がっていて心臓が激しく脈打ち苦しい俺とは反対に、ナマエは息も絶え絶えに気絶寸前のような静けさで薄らと目を開けた。

顔にかかった乱れた髪の毛を元に戻して、すっと指を通らせ整える。気持ちよさそうに目を細めたナマエは掠れた小さな声で「ありがと」と力なく微笑んだ。髪を梳かしていた手をその流れのままに彼女の背中へと回して密着する。生まれたままの姿でくっつくことを彼女は恥ずかしそうにするが、先程の行為と比べればどうして今更これで恥ずかしがるのかが理解できない。


「一静の心臓、どきどきしてる」

「そりゃあまぁ。たくさん動いたんでね」


枕元に置いておいたペットボトルを開けて口に含んだ。これだけ声が掠れていればきっと喉も痛むだろうとナマエにそれを手渡すと、コクコクと喉を鳴らしながらゆっくりとそれを飲んでいく。口の端からツーッと零れ流れた水を拭おうとしたその手をパシッと取って、代わりにそこに舌を這わせてペロリと拭いとってやる。至近距離で目が合って、力なくフッと目を伏せたナマエにチュ、とわざとらしくリップ音を響かせながら唇を合わせた。


「もっとこっち、来て」


腕を回した腰の細さには未だに慣れない。俺の腰と比べたらいつ折れてもおかしくないと思うほどに細い。大切にしたい。そう思うと同時に、少しでも力を入れたら壊れてしまいそうなその白い体に触れると全身の血が沸き立つような感覚を覚える。ブワワッと再び登り詰めてきた興奮に気がついたナマエは、少し慌てた様子で恥ずかしがりながらグッと俺の胸を押して距離を取った。


「死ぬ、これ以上は」

「それはさすがにないと思うけど」

「やだやだ」


逃げるようにして体を反転させようとする肩に手を置いて、それよりも早く覆いかぶさった。唸りながら顔を横に背けるナマエはその仕草が俺の興奮を引き立てないものとでも本気で思っているのだろうか。無防備に晒された首筋に顔を埋めると、キュッと肩に力が入る。体のラインを確認するようにスルりと指を動かすと、くすぐったいのか小さく唸りながらくねくねと体を動かした。


「ナマエ」

「いっせ、っ」

「大丈夫だって、これでは死なないから」


しっとりとした肌に指を這わせる。観念したように頷いたナマエは自ら俺の首にその細い腕を回した。彼女の体に這わせていた手を一旦止めて後頭部を支える。それを合図に彼女は静かに目を閉じた。ゆっくりと近づいて噛み付くようにキスを落としていく。

お互いの体温が溶けていって、どこからどこまでが自分で、どこが彼女なのかが解らなくなってくる。舌をねじ込んだ端から漏れる音が静かな室内に響き渡った。少し苦しそうにする彼女のその声も息も奪い取るようにして飲み込んでいく。酸素の薄くなった彼女の腕は俺の首元でダラりとしていて、たったこれだけで意識が飛んでいってしまいそうな彼女にフッと笑ってそっと唇を離した。


「………大丈夫?」

「そう、見える?」


肩で息をする彼女が絞り出すように掠れた声を出した。顔の周りの髪の毛が汗でピタリと肌にくっついている。とろんとしたいつもよりも垂れた様子の潤った目元と、濡れて赤々と光っている唇。なんだか本当に弱っているように見えて自分から誘ったくせに少しだけ罪悪感を感じた。


「ナマエ」

「なぁに」

「すごい好き」

「………随分いきなりだね?」

「急に言いたくなった」


全身全霊で俺を受け入れるその姿を見るのが好きだ。そう言ったら怒られるだろうか。愛しさの上限を超えてそれをどう言葉にして表せばいいのかは解らない。


「私も好き、すごく」

「へぇ。どのくらい?」

「苦しくて息が出来なくなるくらい」

「死んじゃうよ、そんなんじゃ」


恋しくて、愛しくて死ぬ。その表現はあながち間違いではない。本当にそうなってしまうのではないかと本気で思うことが多々あるからだ。いくらなんでもそこまではならないだろうなんて思ってきたが、ナマエに出会ってその考えは変わった。

誰だったか、I love youを死んでもいいと訳した人がいるらしい。言い得て妙だと思った。

そっと彼女の左胸に手を合わせた。不思議そうな顔をしながらも弱々しい動きで同じようにナマエも俺の左胸へ手のひらを合わせる。どくどくといつもよりも少し早い一定の速度で動くお互いの鼓動を感じた。


「この時間なに?」

「大事な時間」

「………たまに、一静の考えてることが解らない」

「うん、それでも良いよ。そっちの方が面白いでしょ」


死とは、永遠のものだ。たとえ二人して愛しさで死んでしまったとしても、その先には永遠の時が流れている。いや、永遠に止まっているのかもしれない。流れていても止まっていても、ナマエとずっと居られるのならばそれはどちらでも良いことだと思った。

恋しくて死ぬ、なんて。馬鹿げた話を本気でしよう。


前へ 次へ


- ナノ -