木兎光太郎と将来の話


え?と、思わず聞き返してしまった私を無視して光太郎は話を続けた。


「五人いれば俺入れて六人になるから、バレーチーム作れるだろ?」


キラキラとした純朴な瞳をこちらへ向け、な!と同意を求めてくる。たしかにバレーは六人のチーム戦だ。しかし、そういう問題ではない。何も言い返さない私に不思議そうな顔を向けた彼は、少しだけ何かを考える素ぶりを見せたあと、「でも六人だけじゃ戦えないから十一人必要か……?」と困った表情を浮かべ、そしてすぐに「そしたら俺入れて十二人だから試合ができるな!」と明るい声を出した。


「大家族だぜ!」

「え、うん。もしそうなったらビックダディも驚きの大家族ではあるけど……さ」

「おう」

「……こ、子供?」


話についていけないというようにわかりやすく戸惑ってみせれば、光太郎はまた私に向かって不思議そうな表情を披露する。


「光太郎、私たち、子供とかの話は、まだ」

「なんで?」

「え、なんでって言われても」


確かに彼との間に子供ができれば楽しいこと間違いなしだ。きっと彼は素敵な父親になるだろうし、私もこのままずっと彼と一緒に居られれば良いと思っている。

思っては、いるのだ。けれど、私達の間に今までまだそういう話は一切出ていなかった。付き合い始めてからもうそろそろ三年が経とうとしているし、お互いまだ若いけれど先に進むには適した年齢ではある。それでもその類の話は、今までお互いしたことがない。


「もしかしてナマエは子供欲しくないとか!?」

「いやいや違う、そうじゃないけど」

「なんだよーさっきから」

「わ、たし達、そういう話して良いの?」


後々そうなれれば良いとは望んでいたけれど、彼のキャリアやタイミングを考えるとまだなのかなぁと思っていた。それに、彼の職業的にも将来を仄めかした話題を振るのはプレッシャーを感じさせたり、重いとか面倒だとか思われるかもしれないとか、思うじゃん。思ってたのに。


「ちゃんと将来とか考えてくれてるってこと?考えてもいいってこと?」

「ナマエとはこれからも一緒にいるだろ?」


まるでずっと前からの確定事項だとでもいうように、彼はケロッとした顔でそう言ってのけた。もはや私に対して何を言っているんだと言わんばかりの表情である。


「俺は、大好きなナマエと大好きな子供達とずっとバレーし続けてくのが夢!」


私の方をまっすぐ向いて、この世の全てを照らすような大きな笑みを浮かべた。

きゅっと目の奥が熱くなる。思わず俯いた私に、彼は「どうした!?」と慌てた声をかける。私はそれに「大丈夫、ごめん……嬉しくて」と小さな声で返して片手で顔を覆った。

これは多分、彼にとってはプロポーズでもなんでもないだろう。けれど、その類のどんな言葉よりも、自然に出たと思われる今の言葉が何よりも嬉しいと思った。


「私も、バレーし続ける光太郎とそうなりたいって思ってる」


真っ赤に染まった耳を隠すことなく顔を上げると、目が合った光太郎はニカッと大きく笑ってくれた。


「でも、ごめん。十一人は無理。五人でも無理かも……」

「ムズカシイかもしれねーけど絶対無理ではないだろ!?」

「バレーチーム作るのはさすがに……」

「えー!」


光太郎が当たり前に描く将来に私もいるのだ。そうなればいいと望んでいたものが、今この瞬間に二人の夢に変わって、それを叶えられる未来が確信に変わる。


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