ガンガンくる年下


「それの何がいけない?」

聖臣くんは心底理解できないといった様子でコテンと首を傾げた。背の高い大男であるにもかかわらず、その仕草を違和感なくこなすことができるのは尊敬に値する。私よりも何個も歳が下であるから、“可愛い”と思わせられているのかもしれないけれど。

そう、彼は私よりも何個も歳が下なのだ。彼がまだランドセルを背負う前の幼い頃から知っている。もはや弟のような存在なのである。


「俺は姉としてナマエのことを見たことなんてない」


そう言い放つ聖臣くんは至って真面目な表情で、どう返していいのかわからない。彼の口から出てくるのは私に対する好意的な言葉ばかりで、私はそれらに困り果てた様子を隠せずに、目線をふらふらと上下左右に移動しながら口角を引き攣り上げることしか出来なかった。


「付き合う条件に好き以外の何が必要なんだ」


彼は眉間に皺を寄せ顔を顰めた。不機嫌をこれでもかと表している。歳の離れた三人きょうだいの末っ子として育った彼は、こういう仕草が嫌に得意だ。しっかりしていて大人っぽい雰囲気のくせに、妙に母性本能をくすぐるというか、子供らしい一面がある。

彼のそういうところに、私は昔から弱いのだ。凄く。


「ちゃんと考えてみる、から、今はまだ返事はできない」


そう言ったにもかかわらず、今すぐ返事が貰えないことに彼は更に眉間の皺を深めた。考えてもどうせ結果は同じなんだから今から付き合えばいいだろ、なんて悪い結果に転ぶことはないだろうと考えているのか強気に吐き捨てる。


「でもさぁ」

「一回り違う訳でもないのにどうしてそんなに悩む」

「そう言われても」


たしかに私は、聖臣くんだけではなく、自分自身もまだまだ幼い頃から知っているから彼を勝手に弟のように思ってしまっているだけで、この程度の年の差カップルなんて世間には山ほどいるのも事実だ。

聖臣くんが彼氏だったら、それこそ浮気もしないだろうし、私のことをよく知ってくれているし、彼のこともよく知っているし、悪いことはないばかりか良い事ばかりである。

と、一度でもそう思ってしまったら、そういう方向に思考回路が動きだしてしまうことなんてわかっていたのに自ら墓穴を掘った。悔しいくらいに断る理由が見当たらなくなる。

だからといって、しっかりと好きになっていないのに現段階で簡単に答えを出してしまっては彼にも失礼だろう。つい先程まで弟のように思っていた人を突然好きになることは難しい。でもたぶん、意識し始めてしまえばいずれ好きになってしまうと思う。だからやっぱり少し時間が欲しい。ちゃんと私も好きになってから付き合った方が聖臣くん的にも良いでしょ、そう告げたらコクンと頷かれた。


「最終的に付き合えるならいくらでも待ってやる」


たぶん、いや絶対、聖臣くんは本当に私が彼のことを好きになるまでいくらでも待ってくれる。彼の執着にも似た物事への取り組み方には何度驚かされたかわからない。きっとそれは恋愛でも同じなんだろう。

最終的に付き合えるなら、なんていう強気な言い方になんとも言えないむず痒い気持ちに襲われた。ああ、私はこの感覚を知っている。この感覚がもう少し成長したら、立派なときめきという名前を持った輝く感情になるのだ。

彼の強気な言葉を茶化すこともせず縦に首を振ることしかできなかった。

うずく胸の違和感を確かに捉えた。なんだかほんの少し、顔も熱くなっている気がする。


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