彼女が欲しい


三年生にもなれば、彼女の一人や二人欲しいというのが男子高校生の本音である。窓から入ってくる随分と暖かくなった風に、細い髪の毛先を揺らされながら項垂れている木葉秋紀もその一人だ。


「学年中の女子に告白でもしてみれば?」

「テキトーに考えてんだろそれ」


一人くらいオッケーもらえると思うんだけどな。と、テキトーではなく真面目に考えた上での発言だったらしく、不満げに首を傾げたのは彼と同じクラスも三年目となるミョウジナマエだった。

誰にでも構わず告白なんかしたら、木葉は軽々しい男だと逆に女子が遠のいてしまいそうだ。しかしミョウジはそこまで考えてはいないのか、「試しにやってみれば良いじゃん」なんてそれを軽率に勧める。表情を歪ませた木葉が、お前な、と不服そうな声を出し、彼女に向かって小さなため息を吐いた。


「ふざけてんだろ」

「ふざけてないよ。木葉ならいけると思うけど」

「何だよ俺ならって。そんな簡単に彼女が作れたら俺は年齢イコール彼女無し歴なんて悲しい経歴は持ってねーっつの」


ガシガシと頭を掻きながら、木葉はもう一度ハァと大きなため息を吐く。


「そもそも誰に告白したら良いかとかわかんねーし」

「手始めにまず私とか?」


ミョウジかよ。そう木葉は笑ったが、ミョウジは終始真面目に話をしているらしく、「彼女欲しくないの?」と眉を顰める。


「まぁ練習も大事だしな。せっかくのミョウジの提案だしノってやるよ」


木葉は完全に悪ノリで制服の襟元を整えながら姿勢を正した。


「好きです。ミョウジさん、俺と付き合ってください」と、木葉。

「うん。いいよ。私も好きでした。よろしくお願いします」と、ミョウジが言った。

「すげーノリ良いじゃんどうしたの。思わずちょっとドキッとした」

「ノリ良いってか、私のは本心ね」

「は?」

「言ったじゃん、告白してけば木葉なら誰かからオッケー貰えるって。他の学年の女子全員に振られたとしても、私はオッケーするもん」

「はぁ!?」


俺のこと馬鹿にしてんの?それともマジ?考えても考えても、今の木葉の混乱した頭ではなかなか答えが出ない。でもミョウジがこういう系の冗談言ってるのなんて聞いたことねぇし、この顔はおちょくってるわけでも何でもなく、ガチだ。本人が言った通りに、あの言葉は本心なんだ。

木葉は恐る恐る「マジで、彼女になってくれんの」と小さな声で言葉を紡いだ。対してミョウジははっきりとした声量で「うん」と返す。

たった三分前まで彼女が欲しいと嘆いていたはずの木葉は、いざ出来たとなったら挙動不審に狼狽出して「え、あ、マジ?彼女……マジか」なんて情けない声を出しながら背中を丸めた。


「木葉が嫌なら、他の子にも告白してきなよ。私以外でもオッケーくれる子いるかも」

「おい待て付き合い始めて一分で別れ話すんな!」


バンと勢いよく机を叩いた木葉は、そのまま額を擦り付けるようにして深々と頭を下げた。これからどうぞよろしくお願いします。まるで取引でも開始するかのようなその言葉と姿に笑いながら、こちらこそよろしくお願いします、と彼女も返した。

ゆっくりと顔を上げた木葉が微笑む彼女の表情を視界に入れる。あれ、こいつが彼女ってめっちゃ良くね?ミョウジってこんなに可愛かったっけ?そんなことを思いながらうっすらと顔を赤らめた木葉は、これからこんな勢いと流れで付き合い始めた事を嘘だろと周りに笑われてしまうくらい、彼女のことを大切にし始めるのだった。


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