好きなタイプ


この子がいい、こっちの顔の方が良い、この体が一番好き。まぁ良くあるような会話だよな。と、雑誌片手に見開きのアイドルなのかモデルなのか分からないけれど、女の子たちがズラっと並んでいるページを指さし、上から目線で好みの子を選んでいく近くの男子たちの会話に耳を傾けながら、目の前にいる人物に話しかけた。


「ねぇねぇ、木葉の好きなタイプってどんな?」


今日の放課後までに提出だと言われている課題の英文を必死に書き写す男にふと気になって聞いてみた。今忙しいんだよと言わんばかりに面倒くさそうに一度こちらを見上げたその人は、すぐに視線をノートに戻し口を開く。


「エロい子」

「うわっ」

「冗談だよ、そんな引いたような声出すな」


じとっとした視線を向けながら、まぁでも木葉っぽいよねなんて言ってみれば、「どういうことだよそれ」なんて少しイラッとしたような声が飛んでくる。


「まぁ……超正直に言いますと」

「言いますと?」

「俺は俺のことが好きな子のことが好きだ……!」

「出たよそういうやつ」


その言葉だけでなく、言い方に妙に必死感があるのがまた少し残念だ。あと言い回しを変えて、好きになった子がタイプだとか言えばまだ聞こえがいいのに。言葉選びって大事なんだなぁ。


「じゃあ木葉はさ、それまでそんなに意識してなかったとしても好きって言われたらその子の事好きになるわけ?」

「正直そういう所はある」

「わ……」

「引くなよ!好きって言われたら嫌でも気になっちまうだろ!?」

「そういうとこ素直でいいと思う」


声を荒げながら、いつも以上に汚い字で必死に私のノートに書かれている英文を自分のそれに刻んでいく姿を呆れながら眺めた。そのままお互いに黙り込む。ガリガリと木葉がシャーペンを走らせる音が響く。昼休みはあと数分で終わりを迎えようとしていた。


「……じゃあさ、私が木葉のこと好きって言ったらいつか付き合うの?」

「あ?バカ言ってんなよ」

「おい、何でだ」


なんかムカつく。そこスペル間違ってるよ、と思ったけれど教えてやらない。


「実は本気で木葉のこと好きなんだけどな」

「揶揄ってんじゃねぇぞー」


頬杖をついて未だに猛スピードで手を動かす木葉を見ながらぼそっと呟いてみた。けれど木葉は本気で受け取ってはくれないらしい。こんな流れで言ってるから別に流されてしまっても仕方がないけど、実は本当にちゃんと好きなんだよなぁ。残念。


「木葉が私のこと少しでも気になってくれないかなぁとか、あわよくば付き合いたいなぁと思って、こうして昼休みにノートを貸したり、毎日のように何かしら話しかけて仲良くなったりしてるんだけど、木葉は全然気づいてくれないよね」

「…………なぁミョウジ、それマジな話?」

「私が嘘ついたことあったっけ?」

「…………」

「好きだよ木葉」


こんな流れだけど隠していた想いを伝えることができたからか、なんだか満足感がある。ははっと笑いながら窓の外に視線を移せば、ボキッとシャー芯の折れる音がして、ノートを滑るペンの音がピタリと止まった。


「お、ま……」

「どうしたの?」

「どうしたじゃねーだろ!!」


震えながら口をぱくぱくとさせ、顔全体を真っ赤に染めた木葉はなんだか金魚みたいだ。それを伝えると「うるせぇ」だなんて言われてしまったが、その声にいつもの勢いはない。


「お前本気かよ……!!」

「だから、本気だって言ってるじゃん。これで木葉が私のこと意識してくれればいいなぁって今は考えてる」

「ヤメロヤメロ!!」

「ねぇ、私は木葉のこと本気で好きだからさ、さっき言ってた嫌でも意識しちゃうってやつ、私に対してもしてくれる?」

「………っん、な」


ふふっと笑みを溢せば、「笑い事じゃねぇから」と弱々しい声が飛んで来る。「早く書き写さないと昼休み終わっちゃうよ。……うっわ何この字、きったな!」と最後に書かれたへにゃへにゃのミミズみたいなローマ字を笑いながら指さすと、「それどころじゃないんですけど」と頭を抱えた木葉がズルズルと机の上に崩れ落ちた。

自分のことが好きな子のことが好きと言ったんだから、ちゃんとこれからは私のことを意識して、早く好きになって欲しい。


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