付き合うらしい


「お前らって仲良いよな」

「何いきなり」


卵焼きを飲み込んだ金田一が私達を見た。隣に座る国見は、そんな金田一の言葉には興味ないとでも言うかのようにもぐもぐと口に入れたご飯を食べ続けている。確かに、彼が言う通りに私と国見は結構仲は良いと思う。仲が良い、というか、波長が合うと言うやつだ。


「まぁね」


そう返事をしようとしたのは確かだ。けれど、それを口に出したのは私ではなかった。興味がなさそうにしていたはずの国見がいつもと同じ抑揚のない声でそう言い放つ。その言葉に驚いているのは私だけではなかったらしい。まさか私ではなく国見に肯定されるとは思っていなかったんだろう金田一は、目を見開きながら唖然とし、「俺の知らないうちに付き合ったりとかしてないよな?」と、僅かに焦った声を出した。


「そんなわけねーじゃん」

「だよな。焦らせるなよ」

「でも、お前となら付き合っても良いかなとは思う」


そう言って私の方へと顔を向けた国見は至っていつも通りの様子で、その表情に特に変化は見られない。思わず「え」と小さな声が漏れた。国見の放った言葉が頭を中をぐるぐると駆け巡る。パチパチと瞬きを繰り返しながら混乱している私に、国見が「そっちはどう」と投げかけた。


「どうなの」

「え……私も、国見なら良いかな、とは、思う」


彼の考えている事は全く読めないのに押しが強い。早く答えろよという無言の圧に負けてそう答えた。国見のことは嫌いじゃないし、どちらかといえば好きだ。それが恋愛感情なのかどうかは考えたことがないけれど。

私のそれには返事をせずに、国見はまた視線をお弁当箱へと戻してパクッと肉巻きのアスパラを口に含んだ。この空間に私と金田一だけが置いてけぼりになっている。国見は数回咀嚼を繰り返した後、顔を上げて金田一の方を向いた。


「つーわけで俺たち今から付き合う」

「ハァ!?」

「……え、え!?今から!?付き合うの!?」

「なんで焦ってんの」

「いや焦るだろ!!」


頭を抱えた金田一が教室中に響き渡るような大きな声を出した。うるさ、とその様子にジトッとした目を向けた彼は、驚きすぎて固まりながら国見の顔を見続けていた私に視線を寄越して、ほんの僅かに口角を上げる。


「そういうことだから、よろしく」


その柔らかい表情にキュッと左胸の制服の内側が掴まれたようになった。よろしく。気づけば自然とそう口にしていた私の一言は小さく震えていた。その声には、驚きと、焦りと、そしてこれからへの期待と喜びが含まれていた。


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