銀島結に告白したら勘違いされた
◎2023年3月企画
手紙を書いた。いわゆるラブレターってやつだ。今時こんな方法で自分の気持ちを伝えようとする女子高生なんて存在するのだろうか。呼び出して直接のパターンはいつの時代も王道だけど、直接顔を見ながら好きですなんて伝える勇気はなかったのでこの方法を選んだ。
「あの、銀島くん!」
「ん?」
彼が部活へ向かう時にここを通るのは知っている。いつもは侑くんも一緒にいるけど、今日は先生に呼び出されているらしいことを昼休みに知った。銀島くんが一人になる時間はなかなかない。このチャンスを逃したら終わりだ。
靴箱とか机の中に潜ませれば良いとも思ったけれどなんとなく自分の手で渡したかった。直接本人に渡すなんて、その時点で好きですと伝えたようなものだが、言葉にしているかしていないかの差はなかなか大きい。渡してすぐに逃げてしまえばいい。そう、思っていた。
「こ、これ……!受け取ってください……!」
バッと勢いよく差し出したピンクの封筒に入った私の手紙を視界に入れ、少し驚いたように動きを止めた銀島くんは、すぐにいつも通りの様子に戻り「おう」と笑いながら大きな手の中にそれを収めた。キラキラと光る太陽みたいな笑顔が眩しい。そのまま頭を一度下げて、後ろを振り返り当初の予定通りダッシュでその場を去ろうと一歩踏み出す。
「あっ、ミョウジさん待って!」
慌てたように名前を呼ばれ、ガシッと肩を掴まれる。「えっ、えっ」とビビり散らしながら、もしかしてラブレターなんて迷惑だったかと冷や汗をダラダラと流していれば、顔の横でひらひらと渡した手紙を掲げた銀島くんが「侑と治、どっち?」と困ったような笑顔を作った。
「侑くん?治くん?」
「あっ、もしかして角名やった?」
「えっ、どういうこと?」
突然出て来る他の人の名前に混乱していると、噛み合わない会話に目をパチクリとさせながら「え、じゃあ北さんとか?」とさらによくわからないことを彼は言い出す。
「え、っと……え?」
「この手紙、誰に渡せばええの?」
「え!?」
そんなまさか。銀島くん宛の手紙は他の人宛だと思われていたらしい。確かに外から見えるところには“銀島くんへ“なんて書かなかったけど、こんなことがあるのだろうか。
「あ、の、侑くんでも治くんでも角名くんでも北先輩でもなくて……銀島くん、宛、なんですけど」
ああああ。真っ赤だ。顔が。熱い。もうこんなの本当に、決定的な二文字を口に出していないだけで本人に直接好きだと言ってしまったようなものじゃないか。思わず瞑ってしまった目をゆっくりと開いて銀島くんの顔を確認する。彼は口をパクパクとさせながら目を丸くさせていた。頬は私に負けず劣らずの赤さに染まっている。
「お、俺!?」
「え、う、うん。迷惑だったかな!?」
「いや、ちゃう!けど、いつも他のやつに渡してくれって頼まれるから今回もてっきりそうなんやと思って……」
「間違っても他の人には渡さないで!?銀島くんが読んでください!」
「そうよな、俺宛なんやもんな!わかった!!」
「え、待って、だからってここで読まなくていいから!後で読んで後で!」
「でも今読まんと絶対気になって部活集中できん!」
私の必死の抵抗も虚しく手紙を読み始めてしまった銀島くんは、ミョウジさんって俺のこと好きやったんやな……と小さく呟いた。そんな風に声に出さなくてもいいから!直接好きだと言葉にする勇気はなかったけれど、こんなことになるなら手紙なんか書かずに初めから直接好きですと言えばよかった。目の前で読まれるなんてこれ以上に恥ずかしいことがあるだろうか。
「……俺、ミョウジさんのこと好きって思ったことはないんやけど」
「え。今ここで返事されるんですか!しかもなんかもう続き聞きたくないんですけど!」
「ええから!最後まで聞いて!」
好きって思ったことはまだないけど、良え子やなとは思っとったから、あの、お付き合いを前提にお友達から始めてくれませんか!
男らしいキリっとした表情でそう言い切った銀島くんは、驚きでなにも言わない私に「やっぱあかん!?」とあたふたしだす。銀島くん、と、小さく名前を呼んでみた。動きを止めジッとこちらを見る銀島くんに、そっと手を差し出して、よろしくお願いしますと震える声で伝えてみる。
「……っ!!こちらこそこれからよろしく!!」
ガシッと両手で私の手を握り締めた銀島くんはとっても嬉しそうな笑顔を浮かべた。これじゃあどちらが告白したのか傍から見たらよくわからないだろう。じゃあ俺部活行くから、ありがとな!と、そう言って駆けて行ってしまった銀島くんの後ろ姿を見送る。
姿が見えなくなる直前一度こちらを振り向いた彼はブンブンと大きく手を振って、そして体育館の中に消えていった。力が抜けた体を支える力は残っておらずその場にヘナヘナと座り込む。真っ赤な顔を押さえて、一度深く深呼吸をした。
成功と言っていいのかはわからない。けど、どうやら私のこの告白は、なんだか良い方向へと進んでくれそうな、そんな予感がする。
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