週刊誌に撮られる


早朝からバタバタと支度をして、急いでタクシーに乗り込んで事務所へと向かった。ヒールで走るのはなかなか厳しいものがある。こんな時くらいローヒールにすれば良かった。しかしいつどこで誰に見られているか分からないから、どんな時でも気が抜けない。それは、しっかり理解しているつもりだった。


「おはようございます!」


バンと音を立て開いた扉の向こうには数人の人間がこんなに朝早くにも関わらず慌ただしくしていて、私に続いて荷物を抱えこの部屋へと駆け込んだマネージャーが「ミョウジさん到着しました!」と息を切らしながら告げる。

ザワザワとする室内が一瞬だけ静まって、ここにいる全ての人間がこちらを振り向いた。待ってたよと手招きされ、すぐに手渡された資料に目を通す。話に聞いていた通りだ。大きな見出しには、私の熱愛記事が出ている。いや、詳しく言うと、私と言うよりもそのお相手の、だけれど。


「バレちゃったかー」

「リエーフ、あんたなんでそんなに普通なの」


頭を抱える私とは正反対に、ケラケラと笑いながら大きな体を傾けて記事を覗き込む彼。今や超有名人気モデルの彼は、私なんかとは比べものにならないほどにその名を世の中に轟かせている。

同じ業界の人と、さらに言えばその相手がかなりの有名処とあらば、それはもう慎重に慎重を重ねて交際を進めないといけないわけで。アイドル等ではないから特に恋愛禁止令なんてものはないけれど、それでも人気商売には変わらないし、リエーフみたいな女性ファンの多い人となればそれなりに二人でルールを考えしっかりと対策をして今日まで関係を続けてきた。

外を無闇に二人で歩かないとか。お互いの家に行き来する時は細心の注意を払うとか。当たり前のものから始まってもっともっと細かく。昼間に外でデートなんてしないし、行く場所も選んで用心深く過ごしてきたのだ。もちろん、同じ業界の人でも無闇に私たちのことを言いふらしたりはしなかった。

それでもパパラッチというものは厄介で、週刊誌はいつ何処で私たちを狙っているかなんてわからない。今回はたまたま、毎日毎日気をつけていたのに一度だけ二人して数十秒ベランダに出てしまって、その少しの油断が生んだ一瞬の隙をまんまと突かれた。


「交際してるのは事実だし、否定文は出さずに認めて熱りが覚めるのを待つか」

「そうするしかないですね。リエーフも私もしばらくは騒がれるかもしれないけど、きっとまたすぐ次のゴシップ出てくるでしょうし」


真剣に話を進める私たちの横で、一番この件に対して騒がれるであろうリエーフ本人はニコニコと笑みを絶やさない。事の重大さを理解していないのか、ただ楽観的すぎるのか、その両方なのかはわからないが、「これで人前でもいちゃいちゃ出来るってことだよな?」と瞳を輝かせながらそんなことを言ってくる。


「公表したら以前よりは自由は効くかもしれないけど……それでも注意するところはしなきゃだよ。わかってる?」

「んー。わかるけどさぁ。でも俺はずっともっと堂々としたいなって思ってたし。ね、みんなもわかるでしょ?俺隠すのとか苦手なんスよー」

「今のところリエーフくんの仕事に特に大きい影響が出るものはなさそうだし……本人がこう言ってるからいいんじゃない?」

「いいんですか?本当に?」

「じゃあそうと決まれば速く出しましょ!この週刊誌の発売よりも先に公表してもいいんスかね?」

「それは先方と話し合いかな」

「この際公表しちゃうと同時にウエディング特集とか組んでさ〜、どーんと!俺たち結婚しますって、この記事よりもっとすごいの出しましょうよ!」


絶対面白いって!と笑いながら提案するリエーフの言葉に、確かにそれは結構面白いかもなんて乗り出す事務所。焦ったマネージャーが私の肩を叩いて、耳元で小さく「結婚するんですか……!?私聞いてなくて、すみません」なんて慌てたように話し出す。

「ナマエは和装とドレスどっちがいい?マジの式ドレスであげるなら特集は和で企画出す?俺袴着たいし!」


私の顔を覗き込んで、周辺に花を咲かせるようにワクワクとした面持ちでそんなことを聞いてくるリエーフに私は何も言えずに黙ったまま。なんとかして平静を装って、熱った頬は急いでしまったからチークを濃くしすぎたのだと笑って誤魔化せる程度であるように願うしかなかった。

わいわいと進められていく話し合いに、一人心ここに在らずといった状態で、振られた話題も上手く理解できないままただひたすら頷いてその場をやり過ごす。先程放たれた「俺たち結婚しますって」という言葉を引きずりながら、隣にいる大きな彼の顔をそっと見上げた。

私たち、長い間付き合ってきたけど、結婚だなんて話は今初めて聞いたよ。


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