酔っ払って帰ってきた
たーだいま。なんて間延びした声が聞こえたと思ったらギシッと音がしてそのまま長い腕がまとわりついてきた。
「おかえり……うわ、すごい飲んだでしょ今日」
「わかる?」
「お酒くさい」
んー、ふはは。なんて何がおかしいのかわからないが陽気に笑っている鉄朗はもしかしなくてもかなり酔っ払っているらしい。ベッドの上にゴロンと横になってシーツごと私を抱え込み、満足そうにニコニコとした表情を浮かべている。
「スーツ、シワになるから脱ぎなよ」
「やーんナマエちゃんのえっち」
「何言ってんの。明日の朝泣くのは鉄朗だからね?」
ギュウギュウと抱きしめてくるその胸板を力一杯押してみるもびくともしない。それどころかもっと腕の力を強めた鉄朗は、私の耳元で「弱っちーの、かわい」なんて楽しそうに囁いてくる。低く掠れたその声にゾワッと肌を粟立てれば、それに気がついた鉄朗がニヤニヤとしながら「ほら可愛い」なんてもう一度態とらしく唇を寄せた。
「……照れてる?可愛い」
「そんなに何回も言わなくていいってば」
「かわいー。かわいいかわいい」
「もう、からかってるだけでしょ」
ポスンと少し力を込めて背中を叩いてみると、それにさえも嬉しそうな笑い声を上げた鉄朗が「揶揄ってねーって。俺の彼女が可愛いことなんて今に始まったことじゃねーだろ?」なんて言ってポンポンと私の背中をあやすように叩きながら首元に顔を埋める。するとすぐにスヤスヤと寝息が聞こえてきた。
その様子に呆れながらため息を吐いて、スーツを脱げと彼を叩き起こすのはこの赤くなった頬をもう少し冷ましてからにしようと決意した。
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