可愛い人


背が高い。他の子よりもちょっと高いというレベルではない。他の子よりもうんと高いバレー部やバスケ部の子達よりも、さらに飛び抜けて背が高い。

勉強ができる。進学クラスにいるからこの学校ではそもそも頭が良いとされているけれど、その進学クラスの中でも優秀な方だ。

運動もできる。彼はバレー部に所属していて、一年生からレギュラーとしてとても活躍している。しかも、その部活は他の部とは違い全国出場も決まっているとてもレベルの高い部活だ。


「蛍くんはさぁ」

「……名前で呼ばないでくれる」

「なんで?可愛いのに」

「そう言われるのが嫌なんだけど」


月島くんはとてもかっこよくて、そして実はとても可愛い性格をしている。こんなことを言うと彼は怒るけれど、私はそう思えてならない。

すごく冷たいように思えるけど実際はそんなんじゃない。彼は言葉こそ刺々しいが、自分に好意的に近づいてくる人を無碍には扱えないのだ。山口くんから月島くんには年の離れたお兄さんがいると聞いた。それに納得できるような末っ子気質まで持っている。


「蛍くんも私のこと名前で呼んでいいよ」

「僕に徳が何もないでしょ。呼ばないから呼ばないで」

「えー、じゃあツッキーって呼ぼうかな」

「どうしてそうなるのかが理解できないんだけど」


眉間に皺を寄せて、ジトっとした目でこちらを見る。月島くんは私に聞こえるようにわざとらしくため息を吐いた。嫌々言いながらも無視はせずに話に付き合ってくれるし、きっとちゃんと返してくれる。


「ナマエさん」

「ん?なに蛍くん」

「うわ、なんか今鳥肌立った。寒気する」

「私の名前を呪いの呪文みたいにするのやめて?」


彼はさっきよりも深く眉間に皺を寄せるけど、私はやっぱり思った通りに月島くんが私の話に付き合ってくれるのが嬉しかった。月島くんは優しいのである。


「蛍くん」

「やめてって言ってるでしょ」

「可愛いから呼びたいのに。じゃあやっぱりせめてツッキー」

「やめて」

「ツッキーならいいじゃん」

「よくないから」

「なんで?ツッキー」


一歩も引かずに繰り返す。何回かやりとりをした後で、諦めたように月島くんはため息を吐いた。けれどもそこに本気の嫌悪は感じられない。


「ツッキーどしたの」

「……もう勝手にして」

「やったー」


私の勝ちだね。そう言ったらこっちを向いてムッと口を尖らせた。勝負じゃないし。そう言ったその声は冷たいながらもどこか悔しそうで、それがまた面白い。


「ナマエ」


月島くんがぶっきらぼうに放った私の名前がこの空間に響く。数秒経って恥ずかしくなったのかフイっと窓の外を向いてしまった彼に笑いかけると、「笑わないでくれる」なんてさっきよりももっと不機嫌そうな声が聞こえた。

背が高くて、頭が良くて、運動もできて、どこを見てもかっこいい。そんな彼は、やっぱりとっても可愛い人だ。


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