お互いの好きなところ
「月島って、私のどこが好きなの」
「そんなの顔に決まってるでしょ」
「………正直にアリガトウゴザイマース」
顔が好きだと言われる事に対して嫌な気はしないけれど、仮にも彼氏という立場の人にこう即答されてしまうのもどうなんだろうとは思う。まぁ、確かに私顔良いけど。モテるし。面倒くさいからそういう仕事はしないけど、仙台駅とか歩いてるとよくモデルやら何やらのスカウトの声もかけられる。
「君は僕のどこが好きなの」
「そんなの顔に決まってるじゃん」
「素直で結構」
そう言ってまた黙々と残りのお弁当を食べ始める目の前の男を観察する。性格は悪いけど顔は凄く良いんだよね。背もめちゃくちゃ高い。私も女子の中では頭一つ抜けるくらい背は高い方だけれど、そんな私よりも更に頭ひとつ分月島は高い。
「これで性格が良ければなぁ」
「お互い様」
「あっねぇ卵焼き食べたい」
「そっちにもあるじゃん、自分の食べなよ」
「月島家の卵焼き甘いから好きなの」
そう言うと、ムッとした顔をしながらも私のお弁当箱の空いてるところに卵焼きを1つ移してくれる。
月島は言葉が足りないし表情も無いからクラスメイトとかからは怖がられがちだけど、話してみれば意外と優しいやつだ。口から出る言葉のほとんどは嫌味だし、よく人が嫌がる姿を見て楽しそうにしてるけど。あれ、やっぱり嫌な奴だな。
「僕の前でももっと可愛こぶりなよ」
「え〜面倒くさい」
「その顔クラスのみんなに見せてやりたい」
最後の一口を食べ終えてお弁当箱片付ける。そのまま一足先に食べ終わっていた月島の肩に頭を傾けようとすれば、丁度良い位置にくるようにさり気なく座り直してくれた。嫌なやつだけどこういうところはちゃんと優しい。
「月島の良いところはやっぱ顔だけどさぁ」
「何回目なのそれ」
「性格も、嫌いではないんだよね」
誰の前でも変わらない態度で飾ろうとはしない。少し無愛想だし口も悪いけどこの裏表のない性格は一緒にいて心地が良い。私とは正反対で羨ましいし少し憧れる。
「奇遇だね。僕も嫌いじゃないよ」
少し高い位置にある顔を見上げてみれば、少しだけ頬を赤くした月島の横顔が目に入った。あー、やっぱり、月島の顔がめちゃくちゃに好きだな。
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「月島って私のどこが好きなの」
「そんなの顔に決まってるでしょ」
「………正直にアリガトウゴザイマース」
突然何を言い出すかと思えばくだらない。わかりきってる答えを求めないで欲しい。まぁ仮にも彼女相手にどこが好きかと問われて顔と即答する僕も僕だけど、本当のことだから仕方がないよね。それに自分でもよく顔が良いって自画自賛してるし。
彼女は自分の顔の良さを自覚しながら、なるべく嫌味なくそれを武器にしてうまく立ち回るタイプの人種だ。
「君は僕のどこが好きなの」
「そんなの顔に決まってるじゃん」
「素直で結構」
僕の容姿を良く褒めてくれるのは有難いけれど、さして興味はない。女子たちが騒いでるよと彼女や山口にたまに言われるけど別に僕は何もしてないし、勝手に騒がれるのは迷惑だから正直やめて欲しいとも思ってる。
「これで性格が良ければなぁ」
「お互い様」
「あっねぇ卵焼き食べたい」
「そっちにもあるじゃん、自分の食べなよ」
「月島家の卵焼き甘いから好きなの」
別にこの弁当は僕が作った訳では無いけれど、家の味が好きだと言われる事は悪くないと思う。嬉しそうに笑いながら、美味しそうに食べる姿は何回みても良いなと思った。でも彼女は僕がそれを見て良いなと思ってることを解ってわざとその表情をしている可能性だってあるから、そういうところが本当に嫌な女だ。
「僕の前でももっと可愛こぶりなよ」
「え〜面倒くさい」
「その顔クラスのみんなに見せてやりたい」
ヘラヘラ笑った彼女は僕の肩に頭を預けながら寛ぎ始める。僕より大分背は低いけど女子の中では大きな彼女とのこの身長差を実は結構気に入っている。
「月島の良いところはやっぱ顔だけどさぁ」
「何回目なのそれ」
「性格も、嫌いではないんだよね」
誰に対しても明るく振舞う事で生きる術を会得している彼女の生き方は絶対に僕にはできない。けれど、だからこそ尊敬してる部分もある。
「奇遇だね。僕も嫌いじゃないよ」
上目遣いで僕を見上げる彼女を見て、別に僕は面食いではないはずだけど、やっぱり顔が1番好きだなと思った。
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