一番の理解者に相談する
もうダメだー。と机の上に全てを預けるようにして項垂れる。その姿を見た佐久早が「だらしな」と小さく零したのにいつもなら何かしら言い返すけれどそれをする気力すらも今はない。
「どうすればあいつをそんなに怒らせられんの」
「わかんない……」
ダラっと溶けたスライムみたいになる私を見かねた佐久早が珍しく自分から声をかけてくる。励ますと言うよりも、早く復活してくれないと俺が面倒だとでも思ってるんだろう。けれど元也と喧嘩をした私はもう立ち直れないんじゃないかと言うくらいに落ち込んでいた。
いつも私が何をしても言ってもニコニコとしているはずの元也が怒った姿は想像以上に怖くて正直思い出したくない。申し訳ないけどその驚きと衝撃がすごくて、鬼の形相の元也が何を言っていたのかは、頭が働いてなさすぎたために何も覚えてないのだ。
「喧嘩する前なんの話してたの」
「えー、バイトと課題と受験勉強と、他にもいろんなことが重なりすぎて、寝る時間もなくてふらふらしながら歩いてたら車にはねられそうになったって話」
「それだろ」
でも笑い話としてもっと面白く話したんだよ?と言えば、「お前は全然あいつのこと解ってねぇな」と呆れたような声を出した佐久早が深いため息を吐いた。「なにそれ元也マウント?」なんて茶化してみれば「ふざけんならもう行く」と言われてしまったので「ごめんごめん」と慌てて引き戻す。
「あいつは相当なことしても機嫌悪くするくらいでそんなに怒りはしねぇよ」
「でも私は怒られたけど?」
「それは自分のこと大事にしなかったからだろ」
そんでそれを笑い話にまでしようとした。古森が一番嫌うやつだ。そう言ってこちらへと射抜くように真っ黒な瞳を向けた佐久早は、「馬鹿だな」と吐き捨て眉間に皺を寄せる。
たしかによく覚えてないけど、「何でお前はそうなんだ」みたいな事を言われたような気がした。自分のことじゃなくて他人のことを想って怒るなんて元也らしいな。さっきまで怖がってたのに、脳裏に浮かぶ元也の怒りに満ちたあの顔が途端に愛しく思えてくる。
「佐久早はやっぱ元也のことよく解ってんね」
「そんなことない」
「あるよ、私知らなかったもん」
なんかちょっと悔しいな。なんて笑ってみれば、「いいから早く謝ってこい」と顎でドアの方を指した佐久早に釣られ視線をそちらに向ける。その瞬間にヒュッと隠れた影。しかしちゃんと目で捉えた茶色の髪の毛に口角を上げた。
「ありがと佐久早」
「俺は何にもしてねぇ」
無愛想で何考えてるかよくわからないけど、こんなにも優しい。好きな人の親しい人が良い人だということを改めて知った。さっきまで最悪だと思っていたけど、今日はきっと良い日だ。
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