デートの日の朝


髪の毛を丁寧にブラシで梳いて、器用に上下にブロッキングしまとめる。口に咥えたゴムを指で広げ、慣れた手つきでその束を結んだ。


「痛くない?」

「全然大丈夫」


結んだそこを緩く手に取って上部の真ん中を開く。その中央に毛束を入れ込み、キュッともう一度締め形を整え、残りの部分を器用に三つ編みにしていく。編み終わったそれをくるりと中央に巻き付けてピンで留め、お団子になったそこを満足そうに写真に撮り「見て」と後ろから手を回して画面を見せてくる元也の声は、まるでどうだとでも言うかのように自信に満ちていた。


「手際良すぎない?」

「鍛え上げられたからなー」


さすが姉と妹に挟まれて長年生きてきただけある。すごいすごいと褒めれば、「俺の実力はこんなんじゃ済まないんだよね」とさらに得意げに言い放った。傍で暖めてあったコテを手に取った元也は「前向いて」と急かすように催促し、残っていた下部の髪の毛を少量手のひらに取った。


「火傷しないでよ?」

「俺はお前と違って器用だから」

「うわ、むかつく。でも言い返せない」


楽しそうに笑いながらクルクルとアイロンに髪の毛を巻き付けていく。スッと滑らせたそれから離れた髪の毛がふわりと宙に浮いて、シュルッと綺麗なカールを描いた。


「本当に上手だ」

「だろー?」

「元カノにもしてたんじゃないでしょうね」

「してねぇって!信用ないなー」


ケラケラと笑いながらも手は止めずに全体を仕上げた元也は、「完成!」と元気よく言いながら今度は動画を撮ってそれを見せてくる。正直私がやるよりも綺麗に仕上がっているそれに、若干落ち込みながらも「すごい」と言えば、隠した本心を汲み取ったのか、私の肩に手を乗せながら「そんな顔すんなって」と特徴的な眉を八の字にして彼はまた大きく笑った。


「でも本当にすごいよ、毎日やってほしいくらい」

「さすがに毎日は大変だなぁ」


鏡を見ながら左右に首を振ってその出来栄えに感心する私を見た元也は、「今度はあのてっぺん引き出すやつとかやってみたい」とスマホでやり方を検索し出す。


「毎日は無理だけどさ、デートする時はこうやってたまに弄らせてくんない?」

「お好きにどうぞ」

「俺が自分でナマエのこと可愛く出来るの、やってみるとすごい嬉しい」


なぁ今日は俺にやらせて、なんて声をかけられた時はさすがにびっくりした。けれど、元也が楽しそうにする姿を見るのはこちらも嬉しい。彼が一生懸命やってくれた髪型で横を歩ける。そんな一日がこれから始まるのだと思うといつも以上に特別感を感じてわくわくした。


「今日すごい可愛いよ、髪型」

「髪型だけなの?」

「うそうそ、全部!」


事あるごとにそう声をかけてくる元也はちょっとだけ鬱陶しいけど、その度に幸せな気持ちになるから、次はどんな風にしてくれるのかな、なんて、楽しみがまた一つ増えた。


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