クーラーとアイスとコンビニと夏
暑い。とんでもなく暑い。まだ七月下旬で八月の最高潮の暑さではないにしろ、溶けてしまいそうな気温の午後。アイスでも食べようと冷凍庫の中身を確認するとそこは見事に空だった。
「最初はグー」
「しないよ」
「なんで」
「どうせ負けたほうが買いに行くとかそういうのでしょ」
部活がオフだからといってゴロゴロゴロゴロ。床で寝てたら体痛むよなんて言ってみても、角名はそんなにヤワじゃないからとテレビ前でずっと寝転んでいる。うつ伏せでだらけ続ける角名の上に重なるようにして同じように寝そべってみると、「暑、なにしてんの。てか重」なんて不機嫌そうな声が耳に届いた。
「暑い」
「ならそこどけば」
「アイス……」
「俺は別にいいかな」
ゴロンと角名が動いた。そのせいで私はドカッと床に転がり落ちる。「いてっ」と言っているのにそれになんの反応もくれずゆっくりと起き上がった角名は、「クーラー全開にしよ」とリモコンを手に取って設定温度を下げていった。
「おいスポーツマン、いいのかそんなにクーラーに当たって」
「一瞬だけ。部屋冷えたら上げるし」
「意識低いの高いのどっちなの」
ピピピッとリモコンを操作した数秒後、音を立てて勢いよく冷たい風が吹いてくる。強っ。さすがにこれは涼しい通り越して寒いわ。そんな中角名は「アイスどころか何もねぇじゃん」と冷蔵庫の中身に絶望し、風が直撃しない場所へと避難をした。
「一体何度にしたの」
「十八度」
「さすがに低すぎでしょ」
「一気に冷やしてすぐに弱めよう作戦」
「それ馬鹿が取る作戦だよ」
あぐらをかく角名の膝の上にどかっと座り込んだ。「何でここ来んの」なんて文句を言われるが無視だ。ハァと諦めたようなため息を吐かれ、のそのそと長い腕がお腹に回ってくる。そのまま私の肩に額を乗せた角名が「相変わらず体温高いね」と温まるようにぴったりとくっついてきた。
「寒いんじゃん」
「そんなんじゃないよ」
「…………」
「冬にこたつでアイス、夏はクーラー全開でナマエ。それが良いんだろ」
「意味わかんない。いいから弱めるよ」
ピピピッという音と共に、ゴウゴウと唸りながらこの部屋の温度を頑張って下げ続けてくれていたクーラーがひっそりと静まる。「あー……また暑くなる」なんて言いながらそのまま後ろに転がった角名は、両手を広げてフローリングの冷たさを堪能していた。
「暑っ……」
「アイス買いに行こうよ〜」
「一人で行けば。俺はカキ氷系が良いな」
「自分で行けや」
ぼーっと無表情に天井を見続ける角名は、このまま放っておいたらスライムみたいに溶けていってしまいそうだった。部活以外の時間がだらしなさすぎる。
まぁ暑いのは確かだし、さすがにちょっと可哀想だなとも思って、「コンビニ行ってる最中は全開で部屋冷やしててもいいよ、帰ってきたらすぐ温度上げるけど」と言ってみれば、スクっと素早く起き上がり私の背中を叩きながら「ここで食べる分と、帰り道で食べる用のパピコも買お」と先ほどまでのグータラ具合はどこに行ったんだというように張り切りだした。
呆れたように笑いながら、「夜食べるポテチも買おー」と、私もゆっくり腰を上げ彼の横へと並ぶのだった。
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