休日の何でもない話


大きく跳ねた体はふわりと宙に浮いて、そしてまた空気で大きく膨らんだそこに沈むように着地をする。

「トランポリンとかいつぶりかな」
「ガキの頃ぶり」

よくある大型のトランポリンの上でふわふわと跳ねる私を見上げる倫太郎は、もう疲れたとばかりにだらっと座り込んでいる。「倫太郎ももっとやろうよ」。そう言って腕を取れば、「俺はナマエと違って毎日跳んでるんだよな」と怠そうな声を出しながらもしぶしぶ立ち上がってくれた。

「こんな跳ねるだけのどこが楽しいわけ」
「それトランポリン愛好家全員を敵に回す発言だよ」
「その人達にじゃなくてお前に言ってんだけど」
「え?楽しいじゃん」
「わかんねー」

一度グッと伸びをした倫太郎は軽くポンポンと飛んで足元の感触を確かめる。その後ドッと体重をかけ大きく地面を蹴ったと思ったら、凄まじいスピードで体を浮遊させ私の眼前から消えた。

「すご!めっっっちゃ跳ぶじゃん!」
「そんなに喜ばれるとどうしていいかわかんない」
「もっと飛んで!!」

ピョンピョンというよりも、ポーンポーンと翼が生えたように軽々しくその身を宙に浮かせる様はさすがと言ったところだ。私も負けじとタイミングを合わせて跳ねてみた。けれど、倫太郎よりも少し遅れて地面から足を離したはずなのに着地は私の方が先だった。

「もっと私も倫太郎みたいにポーンって跳びたい」
「じゃあもっと膝使いな」
「どうやって?」
「それは自分で考えてみ」

それってただ単に説明が面倒くさいだけでしょ。そう言ってみても彼はその言葉を無視するようにもう一度大きく体を浮かせた。

「マジでめちゃくちゃ跳ぶ」
「トランポリンだしそりゃ跳ぶって」
「私はそんなに高く跳べない」
「センスないんじゃない?」

馬鹿にするような表情で薄らと笑った倫太郎にムッとしながら、その腰にしがみついた。「あぶねっ」と短い声を出した倫太郎は、不安定な足元にふらつきながらも倒れることはなくすぐにしっかりと体制を立て直す。「なに急に」、なんて呆れた顔をしながら不機嫌そうに私のことを見下ろした。

「一緒に跳びたい!」
「一緒に跳んでも俺みたいにはいかないよ」
「やってみなきゃわかんないよ」

一向に引こうとしない私に諦めたようにハァとため息を吐き、「じゃあちゃんと掴んでて」と私の両手を取った倫太郎は、同じタイミングで跳べよと言った後、グッと体を沈ませ大きく体を私ごと浮かせた。

「うわぁぁぁ」
「タイミング合わせろって言ってんじゃん」
「無理無理そんなの!」

それでも確実に自分だけで跳ぶよりも高く跳べている。ぽーんといつもよりも数メートル高くなった視界に若干の恐怖さえ感じるほどだ。握りしめた手に無意識に力が入ってしまっていたらしく「痛ぇ」と倫太郎が小さく顔を歪めた。

「高っ!高い!」
「ナマエが高く跳びたいって言ったんじゃん」
「そうだけど!離し…」
「離さないからね、手」

……鬼!回数を重ねるごとに少しずつ高さが増す。離してとは言ったものの、ここでもし本当に手を離されたらバランスが崩れてしまいそうだ。そう思うとやっぱりこのまま離さないで欲しい。

倫太郎は私の手を握り一人の時よりもだいぶバランスが取りづらいだろうに全然体がブレていない。素直にすごいなと正面を向けば、目が合った倫太郎はフフンと得意げな顔をして「ずいぶん怖そうだね」なんて揶揄うように笑った。

「これで最後っ……!」
「おわっ!?うわぁぁちょっと何すんの!?」

今までよりもさらにグッと脚に力を込めて、大きく飛び上がると同時に両手をあげて私を上に引っ張り上げたと思えば、空中で器用に両手を離し、そのまま私の腰を掴んでさらに上へと放り投げた。経験のない高さと浮遊感に目が回りそうになる。見下ろした倫太郎の表情はニヤニヤといやに楽しそうだった。

「ぎゃぁぁぁ」
「ははっ、声やべぇ」
「ふざけないで本当に怖いってこれ、うわっ痛っ!!」

わかってはいたけどやはり着地には失敗して、尻餅をつくように情けない格好でボンボンと数回小さく弾んだ。弾みながらも体勢がうまく整えられずベシャッと崩れ落ちる私に、倫太郎はお腹を抱えて指をさしながら普段はあまりしないような大爆笑をかましている。なんてことだ。

「危険行為!レッドカードだよ!」
「つーわけで退場。もう行こう。これ以上面白いこと起きないし」
「別に面白いことに期待してる訳ではないんだけど」
「疲れたじゃん。すげぇ笑ったし」
「笑い疲れなの!?」

はははっと未だ完全には笑い止んでいない倫太郎の背中をバシッと軽く叩いてみても、何も反応は示さずそのまま笑い続ける。ムスッと頬を膨らませながら隣へと並べば、ボスっと落ちてきた手のひらがポンポンと数回私の頭の上で跳ねた。オフの日にまで動いて疲れた。そう言った倫太郎は、くっと伸びをしてポキポキと体を鳴らした後、「あ、違う、笑い疲れだった」なんていらない訂正をしてニヤッとこちらを向く。それに私はまたムッとしながら彼の脇腹を軽く小突いたのだった。

そんなどこにでもある休日の、何でもない話。


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