一応反省する


「ちょっとそこに座りなさい」


帰宅すると、ぷんぷんと怒っとるナマエが玄関に立っとった。身に覚えの無い俺は意味もわからず、せやけど下手なこと言ったらきっとど偉いことになるぞという予想を長年の経験から導き出し、大人しく正座で座り込む。


「何回も言ってるのにどうしてああいうことするかな!?」

「ハイ、ごめんなさい……」

「もっと危機感持ってよね?侑は一般人とは違うんだから」

「ハイ、肝に銘じておきます……」

「本当に気をつけてよね。何か他に言うことはある?」

「……ナマエサンはどうしてそんなに怒ってんのかな?とか…」


そう言った途端、はぁ!?あんたわけも分からず座り込んで謝ってたの!?とさらに怒鳴り出した姿を見て、あ、選択肢間違ったなということに気がついた。腕を引っ張られ無理やり立たされると、そのままグイグイと背中を押されてリビングまで移動させられる。


テーブルの上に置かれた雑誌は先日インタビューを受けた物だ。俺が出とるのちゃんとチェックしてくれとるの嬉しいなぁと前に言ってみたら、侑が変なこと言ってないかをチェックしてるのなんて可愛げのない言葉が飛んで来よったけど、それが照れ隠しなんもわかってるからただ可愛えなとしか思えなかったのを思い出した。


「これ、よく読んで」

「んん?俺のインタビュー?」

「私のことでしょこれ!」

「せやで〜」

「せやで〜じゃないの!ファンがいることももっと考えて発言してよ。本当にヒヤヒヤするんだけど」

「ええ、でも俺のファンは俺に彼女が居ることほとんど知っとると思うで?」


「だからってこんな会場で特定されそうなこと言わないでよ…!」と声を荒らげて、一度大きく息を吸った後に「変なファンに狙われたらって考えたら、怖いよ、そんなの嫌だよ」と弱気な声を出して胸元にそっと擦り寄ってくる。口に出したら怒られそうやけど、それをまた可愛えなぁと思って優しく抱きしめ、あやすように背中をさすって出来るだけ安心させてやれるように意識して柔らかい声を出した。


「確かにすまんな。俺ももっと考えなきゃなぁ」

「うん、そうして」

「でも俺はお前と付き合っとること隠すつもりはあんまないんよ。炎上しようが何しようが傷つかへんし」

「でも他の選手やチームに迷惑かかるよ」

「あー、それはあかんわ」


でも俺自身は強いから、お前が心配することはなんも無いんよ、心配してくれてありがとうな。そう声をかけると、眉を寄せたナマエがそっと俺を見上げて「いや心配してるのは会場で私がいじめられることな」と冷たい声で吐き出した。


「ええ、俺の心配とちゃうの?!」

「侑が自分でやらかすのは勝手にどうぞ」

「酷ない!?」


そんなこと言う子には力いっぱいギューの刑や!と目の前の彼女をその通りに力いっぱい抱きしめると、「うわっ」と驚いたような声を出しながらも同じように抱き締め返してくれる。俺のファンにそんな過激なやつは居らんって信じたいけど、もしもナマエに何か……ってなったら怖いから今後はもうちょっと考えよ。そう思いながら、腕の中にいるちっちゃい彼女の頭のてっぺんに小さくキスを落とした。

あー、でもやっぱいつでもどこでも彼女のことが好きやって話したいな。んな事言ったらまた怒られるだろうけど。


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