菅原孝支に絡まれまくる昼休み
「松坂桃李くん結婚してー」
「レベルが高すぎです。もう少し下げて」
「綾野剛くん私と遊んでー」
「綾野剛がレベル低いと思ってるのか。謝りなさい」
「低いわけないじゃん今年のブレイク俳優トップ1・2だよ。てかスガさっきからなんなんウッザ」
昼休みも半分以上が過ぎ去った時間。澤村は部長会議だとかで呼ばれてるっぽくてスガだけが残った。保護者がいない園児の面倒とかマジで見れないから。さっさと東峰のところにでも行きなよ。と言ったら、そしたらお前が一人になっちゃうでしょうが!と声を大に叫び、ずっと私の前の席の椅子に跨りながらそこを退こうとしない。スガと二人でいるよりは、一人の方がマシかなと思っての提案だったんだけどなあ。
「どっかいけスガー」
「昔は修二と彰どっちが好き?とかやってたよなあ」
「話聞いてる?ぶっこみ方えぐ。ちな私は彰」
「山Pな〜あんなんみんな惚れるべ」
あの事務所詳しくないからそのドラマくらいしかわからないけど、めっちゃくちゃ流行ってたなぁ懐かしい。
あのドラマを見ていた当時は、いつか私もああいうドラマに出てくるかっこいい俳優とかアイドルとかと出会って、運命的な人生を歩むんだとか可愛らしく思ってた。
「P〜出会いたい〜無理〜人生やり直す〜」
「やり直したってお前はお前にしかならない」
「ねぇ何でそういうこと言うの」
本気で言ってる訳では無い。けど、夢くらい見させてくれたっていいじゃん。
机に寝そべっていた体を起こし、不貞腐れるようにしながら目の前のスガを見れば、彼は真面目な顔をして「もっと現実を見た方がいいです」と人差し指を立てながら指摘してくる。
「よく見なさい。すぐ見つかるべ史上最高のイケメンが」
「どこ〜どこなのP〜」
「いるじゃないの身近に」
「え?どこに……あー、澤村はかっこいいな」
「なんで大地」
「澤村かっこいいじゃん。顔もオーラも性格も」
「確かに否定するところなくかっこいい!けど!」
「けど?他にいるっけ?」
「いるでしょうが目の前にスガPが!」
「誰よスガP」
「俺!」
バァンと机を両手で叩いた自称スガPは、大きな声で「野ブタパワー注入」と言いながら、指でグイグイと額を押さえつけてくる。そんな数年前のドラマじゃなくて、もっと最新の山Pネタにしてあげればいいのに。
パワー注入の仕方も何もかも違うし、シンプルにうざいし、普通にいらつくのでペシッとその手を払った。邪魔。のそのそともう一度机に伏せる。
するとスガは手を払われたことにブーブーと文句を言いながら、垂れた私の髪の毛をひと掬いして弄り出し、「結構イケると思いません?俺」と言いながら机に空いた少しの隙間に顔を伏せた。
「スガはすごく悔しいことに整ってるよね」
「ほくろとかもセクシーだしな」
「何で自分で言って自分で満足してんの」
「ミョウジが言ってくんないから」
「あんたのこのくっだらないやりとり、バレー部の後輩たちに聞かせてやりたいね」
「俺はいいけど、きっとミョウジが恥ずかしくなるだけだぞ?」
どうして?という顔をしながら横を向けば、ドアップですぐ近くにスガの顔があった。同じ机に伏せて顔を向け合っているのだから、よく考えなくてもまぁこんな距離にはなるのか。
ビックリしたー、と特にテンションを変えることもなく淡々と言えば、眉間にシワを寄せたスガが「もっと恥じらえ、女の子だろ」と口を尖らせながらほっぺたをぷすぷすと指で刺してくる。
「………何してんのお前ら」
「あっ澤村やっと来たー!」
「来たな大地!」
「なんで俺はスガに敵意剥き出しにされてるワケ」
「イケメン澤P」
「P……?」
「澤村は山Pみたいにかっこいいねってこと」
私の隣の自分の席に着いた澤村が、「それ一周回って馬鹿にしてるでしょ」と言いながら苦笑いをする。
「大地どうにかして、じゃないとそのうち俺もミョウジの写真ぬか漬けにしだす」
「一体それは何の話をしてるのよ」
「えっ澤村もしや野ブタみてないの!?」
野ブタパワー注〜入〜!と二人揃ってやってみれば、「お前らホント仲良いのな」と呆れた顔で言われてしまう。別に仲良くないし。勝手に絡んでくるだけだし。
ウィ〜と言いながらハイタッチを求めてくるスガ。スルーするともっと面倒くさくなるって経験上わかっているので、ハイハイと言いながら渋々対応すれば、いえー!とさらに大声で言いながら彼は満足そうに笑った。
「あ〜あ、やっぱり彰かっこいい結婚してー」
「レベルが高すぎです。もっと周りを見ましょう」
「……澤村結婚してー」
「なんで大地!?ここにスガPがいるだろっ!」
「…………」
「こっち見なさい!このっ!こっち向け!あっくそそっち向くな!」
「……どうでも良いけど俺を巻き込むなよ」
ギャーギャーとうるさい昼休みももうすぐ終わる。毎日毎日飽きもせず絡んでくるから、きっと明日もこんな感じなんだろう。
澤村と違って見た目から想像できないくらいに結構うるさいし、たまに面倒くさいけど、まあ退屈はしないから別に嫌いではない。むしろ気楽に付き合えるから結構この関係は気に入っている。なんてことは、まだスガには言ってやらない。
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