腐草為蛍
タタンと寂しい音を立てて、腕の中から落ちたボールがコロコロと体育館の床を転がっていった。
「俺拾います」
「ごめん、ありがとう」
「このくらい全然平気っす。他に何かやることないですか?」
「大丈夫」
なんでも率先して動いてくれる一年生はありがたい。俺もよくモップがけとかしてたな。二年前の今頃を思い出しながら、広い体育館を見渡した。
あの時は先輩たちのプレーが見られると柄にもなく心が躍った。試合を見るのも、出るのも楽しかった。もちろん今だってそれは思ってる。けど、後輩たちが俺に対して、俺が先輩たちに感じていたように思ってくれているかはわからない。
「片付け全部終わりましたー」
「わかった。じゃあ、各自明日の予定しっかり確認して、解散」
レギュラーの同学年の奴らは頼もしくて、俺が本当に主将で良いのだろうかと思うほど。同じコートに立つ後輩たちは、闘志も実力も申し分ない。メンバー表に書かれた名前は半年前とは全く顔ぶれが違う。
あの人たちのいない、俺たちの、新たな大会がはじまる。
腐草為蛍
(くされたるくさほたるとなる)腐った草が蒸れ蛍になる
六月十一日〜六月十五日