蚕起食桑
いくら学校が早く終わるといえど今日も明日もテストなわけで、いつものように遠くまで行くことはできないし、体力を使いすぎることもできない。
気になっていたというカフェのランチプレートを目を輝かせながら写真に収めるコウにカメラを向ける。カシャっと響いた音に気づいたコウが顔を上げて、「今撮った?」と不満そうな顔を見せた。
「可愛かったから」
「……絶対嘘だよ。気の抜けた顔してるよ」
「それが可愛いんでしょ」
遠回しに消せと言われているのには気がついているけど、残念ながらそうはしてあげられない。カメラロールには楽しそうにプレートを見つめスマホを掲げる彼女がしっかりと記録されている。うん、可愛い。それを再確認して、「冷めないうちに食べよう」なんてごまかしながらテーブルの傍にスマホを置いた。
納得いっていないような顔をしながらも、コウも「そうだね」と言って、すぐにまた笑顔になり「美味しそう」と瞳を輝かせた。コロコロと変わっていく彼女の表情は、本当ならは写真ではなく全て動画で収めたいくらいだ。
「いただきます」
そう言って俺の方を見ながら笑顔で手を合わせた彼女を見たら自然と口角が上がった。彼女の前では俺も釣られて豊かになれる。いつだって。
蚕起食桑
(かいこおきてくわをはむ)蚕が桑を盛んに食べ始める
五月二十一日〜五月二十五日