紅花栄
月の初めに比べてかなり日が長くなってきた。それでも部活終わりのこの時間は暗いことに変わりはない。いつもなら家まで送っていくけど、今日は彼女がこれから塾だというのでルートが違う。
見慣れない道を歩きながら、こんな時間からまだ勉強するなんてすごいねと声をかければ、彼女は「でも今日は今までずっと図書室で寝てたから、勉強時間的にはそこまで変わらないの」と恥ずかしそうに頬をかいた。
「俺もそろそろ本腰入れ始めないとかな」
「でも赤葦くん、成績悪くないし、そこまで気張らなくてもまだ大丈夫じゃない?」
「指定校狙いって言ったって、勉強はしておいて損はないから」
「たしかに。赤葦くんが本腰入れて勉強始めちゃったら私なんかすぐ追いつけなくなりそう」
「そんなことないよ。俺よりコウの方が全然頑張ってるでしょ」
「私は要領が悪いから、他の人よりもたくさんこなさなきゃダメなだけだよ」
暗闇にチカチカと激しく光る主張の激しい塾の看板を見つめながら少し声を小さくしてそう呟いたコウは、パッと顔を上げて俺に笑いかけた。じゃあね、送ってくれてありがとう。また明日。そう言った彼女に同じように手を振る。扉が閉まるギリギリまで何度も何度もこっちを振り返っては手を振る彼女に笑いながら、その姿が完璧に見えなくなるまで建物の前で立ち止まった。
自分の実力とやるべきことと課題がちゃんと見えている。彼女はあんな風に自分のことを言っていたけど、己を分析して早いうちから取り組んでいるその行動力こそが尊敬できるところだと、俺はそう思う。
紅花栄
(べにばなさかう)紅花が盛んに咲く
五月二十六日〜五月三十日