蚯蚓出
夏の訪れはまだ随分と先だけど、もう身体を動かせば十分に熱いし、昼間もかなり過ごしやすい気温になってきた。GWを過ぎたら一気に夏が近づくなんて言うけど全くその通りだと思う。
「遊びに行くにはちょうど良い気温なのにさ、お互い塾とか部活なの、仕方ないけどちょっと悔しいね」
部活帰りの薄暗い道を二人で歩く。図書室で自習をしていたという彼女は固まった体を伸ばしながら少し残念そうにした。
高校三年生と言えば大人は誰もが良いなと羨ましがるけれど、将来に向けた大事な時期なので結構忙しいのだ。もちろん全国の高校三年生全員がそうであるなんて言わない。でも少なくとも俺たちはたまにある貴重な休日にデートをする事はあっても、どこか遠くに行くという時間まではなかった。
「今年はお互い難しそうだけどさ、来年は二人ともきっと今よりは時間あるはずだし、このくらいの時期にどこか行こうか」
「それは良いねぇ」
にこにこと楽しそうな表情に戻ったコウに満足して俺も前を向く。と、遅れて俺の発言に驚いた様子のコウがチラチラと視線をこちらにやった。
「来年も一緒にいてくれるの?」
「……いないの?」
少しムッとした顔を向けてみれば、慌てた様子で「あっ、違っ、疑ってるわけでも別れようとしてるわけでもなくて、赤葦くんがさも当たり前みたいに言うから」と顔を赤くする。
「当たり前でしょ?」
眉を顰めてそう言えば、恥ずかしそうにしながらも嬉しそうに口元を緩めたコウが「そっか……楽しみだな」と呟いて俺の左手を緩く握った。
その右手は、過ごしやすく感じるこの時期の温度よりも随分と温かかった。
蚯蚓出
(みみずいづる)ミミズが地上に這出る
五月十日〜五月十五日