霜止出苗


GWなんて言ったって、俺たちには部活がある。長い休みとなれば一日中練習試合が組まれることが少なくない。今日ももう行き慣れてしまった他校の体育館へと足を運んで、汗だくになりながらキツい一日を過した。


「木兎さんがいなくなってもやっぱり梟谷はつよいね」


ガシガシとタオルで汗を拭きながら、俺と同じくらいに上がり下がりのない一定のテンションを保った孤爪が、珍しく練習終わりに話しかけてきた。ふぅと息をついて隣に座り込んだ俺に「赤葦が主将なら、落ち着いてそうでいいな」と、体育館の反対側で数人集まってワイワイと騒いでいる中の一人を見ながら呟く。


「うち来る?」

「いかない」

「それは残念」

「おれがそっち行ったら、うるさいのしか残らないし」


まぁ、福永は静かではあるけど。と、未だ騒いでいる集団を見ながら手元のドリンクを飲み干した。同じようにそちらに視線を向ける。後輩と一緒になって燥ぐ姿を見て、俺もああなりたいとは決して思わないけれど、少しだけ羨ましいとは思った。

信頼にも種類がある。それぞれに適した役割というものがある。山本は黒尾さんとはまた違う形で、仲間との絆を深めて引っ張っていけるようなタイプだ。


「俺も頑張らなきゃな」

「……こんなにやってんのにこれ以上なにがんばるの」


意味がわからないとでも言うように顔を歪めた孤爪に、小さくフっと笑いながらゆっくりと立ち上がった。転がるボールを拾って元の位置に戻す。「三十分までに出れるように準備して」と投げかけた言葉に、たくさんの返事が返ってくる。

俺も、俺なりのやり方でここに立たなきゃならない。

霜止出苗

(しもやんでなえいづる)
霜が止み苗が生長する
四月二五日〜四月二十九日

  

 
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