道を云はず:天童

L’amour n’est pas seulement
un sentiment,
il est un art aussi.




ぽかぽかと暖かい日差しが差し込む昼下がり。春も深まって過ごしやすい気温になったこの季節のこの時間帯はどうしたって眠気が襲ってくる。ぼーっとする頭を無理やり起こしながら、ソファに寝転ぶ天童さんの方へと向かった。


「……んー」


仰向けにゴロンと転がりながら、タブレットでジャンプを読む天童さんの上に乗っかってうつ伏せにしがみつく。私の突然の行動に少しだけ目を大きく開いた天童さんが、空いた右手で「どしたのー?」と言いながらクシャクシャと私の頭を撫でた。それが無性に心地よくて、コアラのようにしがみつきながら再度「んー」と力なく唸った。

カタッと側にあるテーブルにタブレットが置かれた音が聞こえる。それと同時にポンポンと一定のリズムで背中を叩かれて、あやされる子供みたいにどんどんと睡魔に飲み込まれていった。

はずが、さわさわと服の下に手を差し込んで、わざとらしく表面を撫でるように背中に指を這わせてくるくすぐったい感覚にビクッと全身が反応して、パッと意識が現実に舞い戻ってきてしまった。


「……なにしてるんですかっ」

「眠そうだったから起こしてあげたんだよ」

「そこはそのまま寝かせてくださいよ!」


パシッと、未だに背中を這い回る手を払おうとするもビクともしない。起き上がり離れようとすると、同じように体を起こした天童さんがそのまま抱え込むように抱きしめてくるので、離れるどころか自由に動くことも出来なくなってしまった。


「どこいくの〜」

「起きるだけです!」


もぞもぞと無理やりに体を動かして天童さんに背中を向ける。それでも抱えられたままなので立ち上がることは出来ず、背後から抱き抱えられるようになっただけだ。すりすりと首元に擦り寄る天童さんを避けながらテレビでもつけようかとリモコンに手を伸ばした時、急に襲ってきた刺激に思わず動きを止めた。


「ッ!!」

「隙だらけ」


危うく落としそうになったリモコンを慌てて持ち直しながら勢いよく後ろを振り向く。目を細めた天童さんは、「無防備すぎ〜」と妖しく笑っていた。軽く噛まれた首元が少しだけヒリヒリする。キッと睨みつけても、全然怖くねぇと楽しそうに笑いながら、耳たぶに舌を伸ばした天童さんが後ろからまとわりついてきた。


「……っ、やめ、天童さん」

「耳弱いの可愛いよネ」


パクッと口に含まれてそのまま歯を立てられる。声を上げるほど痛くはないけれど、確実に刺激されている痛覚がジンジンと悲鳴を上げた。

リモコンを奪い取ってテーブルへと戻した天童さんは、私の体を回転させて向き合うように座り直す。私の手を取ってそっと指先に口付けるとそのままカプっと先端を噛んだ。少しずつ位置をずらされて、どんどんと指が奥へと進んでいく。同じように回数を重ねるごとにわずかに強まる噛み付く力がビリビリと付け根を刺激していった。

目の前で食べられていく自分の指を静かに見つめる。指を咥えたまま目線を上げた天童さんが上目遣いでこちらを見てきた。それにどうしようもなく心がぎゅっとなって、空いている方の手でその頬に手を伸ばした。触れた頬側の目を薄く閉じた天童さんは、そのまま体重をかけて私のことを押し倒す。ぽふっと背中がソファへ沈むのと同時に服の襟元をずらされて、今度は肩に柔らかく歯を立てられた。


「噛むの、好きですよね」

「晶子ちゃんは噛まれるの嫌い?」

「痛いのは嫌いです」


噛まれたそこがじんわりと鈍い熱を持つ。痛すぎるのは嫌いだ。けれど、少しの痛みは何故か気持ちよく感じてしまうから変だ。みんなそうなのか、私がおかしいのかはわからない。


「もしかしてチョコレートも噛む派なんですか?」

「それは舌で転がす派」

「私もです」

「晶子ちゃんもされたい?」


ガジガジといろんなところを噛み続けていた天童さんがゆらりと顔を上げた。ペロリと口端を舐める舌が艶かしい。魅惑的なその仕草に背筋がゾクゾクとして何も言葉が出ない。仕留めるように見下ろされて息が詰まる。緊張の糸がピンと張って、その空気に耐えられずにゆっくりと目を瞑った。

ゆったりとした動きで近づいた天童さんが、先程噛んでいた首元に残った痕を舌先でツーッとなぞっていく。熱いそれが器用に私の肌を滑って、触れられた箇所がまるで火傷をしてしまったかのような熱を持った。天童さんのシャツを掴んで必死に耐える。痛いのかくすぐったいのか気持ちが良いのか、やめて欲しいのかもっと欲しているのかが自分でもうまく判断できない。


「えっろい顔」

「………天童さんも、です」


遠くでどこかの教会の鐘の音が鳴った。カプッと下唇を軽く噛まれて、すぐにペロリと長い舌が口内に割り込んでくる。甘い熱に侵されてもう何も感げることが出来なかった。彼を離さないように、首元に腕を回して思い切り引き寄せる。

もっと、出来ればもう少しだけ強く、彼が私を欲しているのだという証を身体中に刻み込んで、赤く熟すまでやめないで欲しい。

ヒリヒリとした痛みが快感に変わっていく。クセになりそうなその刺激から、抜け出すことはもう出来ない。


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