On revient toujours
à ses premières amours.
「牛島若利だ。よろしく」
そう言って、目の前の大きな男性はキリッとした表情を崩さずに、スっと握手を求めるように手を差し出してきた。
「う、しじま、わかとし……?」
「そうだ」
「ビックリした?俺のマブダチ!」
「そうだ」
コクリの頷く牛島さんは、どこからどう見ても本人だった。もちろん今まで彼と直接会ったことは一度も無い。しかし日本にいる時に何回もテレビで見た。正直バレーボールには全然詳しくない。けれど、強い世代の強い選手だとよくスポーツニュースに取り上げられているのを知っている。その人が、天童さんの、お友達。
天童さん自身だって、こんなに普通に接しているけれど実はもの凄い人なのだ。取材のオファーも沢山来るし、名が知られている人気のショコラティエ。それを考えると有名な方と知り合う機会もたくさんあるのだろうし、友人の一人が牛島選手というのも頷けるのかもしれない。
「高校の同級生なんだよネ」
「チームメイトだった」
「……チームメイト?」
「バレーボールのだ」
「こう見えて若利君と同じ部活だったのよ」
へぇ〜、そうだったんですね。と呑気に答えたものの、ふと頭に浮かんだ素朴な疑問が引っかかる。高校の時のチームメイト。牛島さんって確かその時から凄く強くて、卒業後すぐにプロ入りしたっていう若手の選手じゃなかったっけ?全国大会の時にどうのって何かの番組で取り上げられていたのを見た気がする。その人と同じ部活だったってことは、もしかして天童さんも相当強かったのではないだろうか。
「変な顔!ウケる!」と混乱する私を指さして笑う天童さん。それを無視しながらぐるぐると頭を迷わせていると、「今じゃ日本の大エース様だもんね〜驚くのも無理ないか」とケラケラと笑いだした。その言葉を聞いた牛島さんが「天童も凄い選手だった」と変わらないテンションのまま告げる。
「知らない天童さんの情報がたくさん出てくる……」
額を抑えながら俯くと、「戻ってきて〜」とゆさゆさ私の肩を揺らす天童さんが、楽しそうにしながら「あっそうだ若利君、言ってなかったけど晶子ちゃんは俺のカノジョだヨ!」と、とても雑に紹介をした。
そして突然のその紹介にも特に驚きはせず、「そうか」と相変わらずな返答で頷く牛島さんは、「天童をよろしく頼む」と律儀に頭を下げた。
「え!?頭あげてください!」
「若利君も変なの」
「天童も以前同じことを言っただろう」
「あーね!懐かしいねその話〜元気してる?」
「あいつはいつでも元気だ」
思い出話に花を咲かせながら歩いていく二人の後ろをひょこひょこと着いていく。有名ショコラティエに有名なバレーボール選手。そして私。どう考えても場違いなんじゃないかとソワソワしていると、振り向いた天童さんが「何してんの」と笑いながら私の肩を引き寄せた。二人の間に挟まれたことで更にどうしていいかわからなくなるものの、肩に回った天童さんの腕がこの場所から離れることを許さない。
「若利君は確かにすごい選手だけど〜」と牛島さんの方を向いた天童さんは、一拍置いた後にチラッと目線をこちらに下げた。
「それ以前に俺のトモダチなんだから、フツーに接していいんだよ」
ね〜、と私越しに牛島さんに言葉を投げかけた天童さんのにんまりとした笑顔を見上げる。「ああ」と頷いた牛島さんへと視線を移すと、普段のインタビューとかさっきまでの雰囲気からはあまり想像できないような、少し控えめな柔らかい笑みを浮かべていた。
「てかさー、これからどうする?パリの夢の国にでも行く?」
「今から向かうと夕方になるだろう。明日の方が時間があるんじゃないか」
「行くことに否定はしないんですか……?」
マイペースすぎる二人に挟まれていると、いろんなことがどうでも良くなる気がした。天童さんのお友達はとても凄い人だった。そしてとても優しい人。類は友を呼ぶというから、それにも納得出来た。天童さんの周りに集まる人は温かい人ばかりだ。
「若利君はクソ真面目だけどね〜、良い人なんだヨ」
嬉しそうにそう言った天童さんの言葉を聞いた牛島さんがフッとこちらを見た。それに気付いて同じように視線を合わせる。
「天童も良いやつだ」
天童さんではなく、私の方を見て力強く頷いた牛島さんに答えるように「そうですね」と言って笑った。「なになに!?照れるんですケド!」と私達の顔を覗き込んだ天童さんの、未だ私の肩に回ったままの手にそっと触れて、わざとらしく体重をかけるようにして歩きながらその体に寄りかかった。