倫太郎おじさんの朝は早い


※番外編2

おじさんの朝は早い………。何時間もぶっ通しで寝るのは結構体力使うからな。若いうちは一日中寝てもうた〜とかよく言っとったけどそれもどんどん出来んくなってくからみんなも気を付けや。一月一日の新年あけましての午後、少し電車に揺られて隣県の神社に来た。午後って別に朝早く無いやんって思ったやろ?当たり前や。朝起きるんは早いけどそんな朝早くから動き出したらおじさん冷えっ冷えやぞ。死んでまうわ。朝は早くても動き出すんは遅い。これがおじさんというものである。

そんなことは別にどうでもええねん。なんでわざわざ兵庫ではなく隣県の神社に出向いたかといえば、ここにはスポーツの神様で有名な神社があるからや。境内にはサッカーに野球にバスケットボール、そしてバレーボール、他にも色んなスポーツのボールやら道具やらが置いてあって、プロの選手らのサイン入りのもんとかもある。オリンピックで使われとったバレー日本代表選手たちのサイン入りボールとかもあるんやで、興奮するやろ。

お賽銭への長蛇の列には近所に住んどると思われる家族、スポーツ少年たち、近場の学校の部活仲間で来とるんかワイワイ楽しそうにする女子高生、あとはなんか俺みたいな観戦ガチ勢か?みたいなおっさんたち。老若男女問わずいろんな人らが並んどる。もちろん全員やないと思うけど、たくさんの人が自分や誰かのスポーツへの健闘を祈る為にここに訪れとるっちゅうわけや。

順番が来て、事前に財布とは別のがま口に用意しとった小銭を取り出す。ほんまは銭洗弁天とかで洗いたかったんやけど、そこには行く時間が取れんかったから家で小銭を洗ってきた。金運が上がるとか言われとるけど金じゃなくてもええから運をなるべく上げて欲しい。効果あるなしは解らんけどやらんよりマシやろ、例え自己満足でも。

軽く一礼。なるべく静かに賽銭を入れる。丁寧に鈴を鳴らして、深く一礼。両手を合わせてから右手を少しずらして柏手を二回。右手を戻して失礼の無いように…住所と名前を言って神様にご挨拶、それから…………頼む神様!倫太郎が怪我なく、悩むこともなるべく少なく、そんで頑張っとる彼らにほんの少しだけのエールを!多分あいつらは自分自身で勝利を貪欲に掴みに行くはずやから、それだけに集中できるようになるべく障害になることが起こりませんように!頼みます!ほんまに!……あともう少しだけボーナス上がって健康診断の結果も良くなりますように。これでもかという強い力を込めて手を合わせた。最後に深くもう一礼。

顔を上げてまっすぐと拝殿の奥を見た。一歩下がって、後ろを振り向く前にもう一度軽く礼をした。よし。ふぅっと気合を入れて一息ついて、次は御守りを選びに行く。あー、たくさんあって迷ってまうなぁ。でもやっぱこれしかないやろと闘魂守を手に取った。…色、何色にする?稲荷崎やからやっぱ黒かな。

せっかくやし嬢ちゃんたちにも買ってくか。何色がええんやろ。ん?たち?達ってなんや。嬢ちゃんと、倫太郎か!?あかんでさすがに図々しいやろ!ブンブンと首を振って邪念を払った。御守り押し付けるとかプレッシャーやし、わざわざここの神社選んだっちゅーのもなかなか恥ずかしいし、勝手に身内ヅラとかホンマにあかんファンやん。でも嬢ちゃんはこういうん好きそうやし仲間の印として買ってこうか。白もかわええけど汚れてまうし赤にしよ。

近くにある縁切り神社でせっかくやしと悪運も切って、少し歩いたところにある有名な豆餅屋にも寄ってみた。こうして散策も少し楽しんで、また電車に揺られ兵庫へと帰る。あ、やってもうた、伏見稲荷とかにも寄っとけばよかったな。まぁそれはまた今度にしよう。一度に済ますよりも分けた方が楽しみ増えるしな。欲張りすぎるのもあかん。

あー、もう少しで春高や。むっちゃ楽しみやなぁ。電車に揺られながら数日もしないうちに始まる一年でも最も熱いと思われる大会へと思いを馳せる。それとほぼ同時にポケットへと入れとったスマホが振動した。慣れん手つきで見てみれば表示された嬢ちゃんの名前。何やどうしたと開いてみれば「あけましておめでとうございます!」との文章と、動く元気なスタンプが送られてきた。

今年もよろしくなと返事を打って、先程撮った神社の写真を一緒に送信する。すぐに返ってきた返信は「いいな!私も行きたかった!」との文字。文末に付けられた涙目の絵文字と同じ表情をしとる嬢ちゃんの顔がパッと思い浮かぶ。ちゃんと御守り買ってきたでと普段はあんま使わんスタンプと共に送って、喜ぶ嬢ちゃんの返信にクスリと笑った。

去年が去って、年が明けた。新年。今年はどんな一年になるんやろ。春高が終われば倫太郎もすぐに三年生で、高校のバレー部員選手としての倫太郎を応援するんは最後の年になる。もしかしたら倫太郎自体を応援するのもこの一年が最後になるんかもしれん。進路とか、他にもいろいろ、絶対に今年はいつも以上に悩み事が尽きない一年になるはず。この一年はそんな色んな悩みを他の年以上に避けて通ることは出来んと思う。せやからやっぱり少しでも、必要な悩み以外の余計な問題で困ることが無いようにと、買ってすぐに鞄の内側に付けたさっきの御守りをぎゅっと握りしめた。

倫太郎も、みんなも、今年もまた一年よろしく頼むな!


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