最高や!倫太郎!




1試合目が終わった休憩中、先程この子に送ってもらったさっきの写真を2人して眺める。何回みてもよく出来とる団扇や。感心するなぁ!


「アイコンのお写真、去年の春高ですか?」

「よぅ気づいたな」

「私も会場行きました!角名くんの試合も見れて、東京も初めて行ったんで楽しかったです」

「あの試合は良かったよなぁ〜」


倫太郎が試合に出てきたんは去年の春高予選辺りから。まだレギュラーではなかったにしろ、交代選手としてちょこちょこ出場しとった彼は、数少ない出番でもしっかりと印象付けるようなプレーをしてみせた。噂の宮兄弟だけじゃなく、今年の1年生もしっかり粒ぞろいやなと稲荷崎高校の応援団達はこの代も安泰やとみんなで盛り上がっとった。

最初は俺もその1人やった。宮のド派手なプレーに紛れてしっかり淡々と点を稼いでいくものすごい体幹の安定しとるセンスある子。将来性に期待やなといつも通り他の選手と同じようにして眺めていた。

春高本戦の1試合目、割といい流れで稲荷崎はリードしとった。1セット目を奪っての15-7。まぁこの試合は大丈夫やろと周りの誰もが思ったところで、監督も同じような気持ちやったのか選手をどっと入れ替えた。初めて春高という大きな舞台に立つ1年生たちをどんどん投入して慣れさせる作戦やなぁとじっと眺めとった。

宮ツインズは緊張なんてミリも感じさせんくらいいつも通り、というかそれ以上に盛り上がっとって肝が座ってるななんて隣の奴と笑いあった。倫太郎もあんな感じやし大丈夫そうやなと思っとったけど、想像出来んかったくらいに調子が悪かった。

予選では抜けとったところが抜けない、ブロックにいまいちキレがない、予選で見せた今後に期待できるようなプレーはどこに行ったのか。心配になってしまうような場面ばっかで、俺だけやなく周りのみんなもあの子大丈夫やろかとザワザワしとった。

たまにおるんや、大きな舞台で緊張とかプレッシャーとかで潰れる子が。あともう1つ、緊張プレッシャーは感じなくても、自分自身への焦りとかで自滅してく子。ここまで来たんやから何か一つでも結果を残さないとと気負いすぎて自滅してく。1年生や2年生によくあるパターンやった。

あんまりそういうの考えなさそうな子やけど、無意識にそういう思考回路に嵌ってしまうんやろな。自分で気づいてるかわからんけど、そういう時はプレーすればするほど調子が悪くなっていく。

現にその時の倫太郎はすぐに交代させられとった。しょぼくれてしまうんかな、メンタル大丈夫やろかと心配になったけど、ベンチに下げられた時に一瞬だけ見せた悔しそうな顔を見たらこの子はまだまだ行けるなと思った。そういう顔ができる子は、絶対これからのし上がってくる。

2回戦目。盛り上がりも最高潮に達した場面で選手交代が告げられた。札を持って現れたのは倫太郎で、周りのみんなは1回戦目の記憶が残っとるのかあの子か、大丈夫やろかと少し心配そうだった。俺は思わず普段はそんなに大きな声は出さへんけど、ぶちかましたれ!とコートに向けて叫んどった。その声が届いたかどうかはわからへんけど、おっさんの自己満足やからどうでもええ。

倫太郎は相手の学校はもちろん、俺たち稲荷崎側の人間も驚かせるように点を獲っていった。相手校はもちろん当時の倫太郎はノーマークで、攻略されることもなくズバズバ決めてく様は見てて気持ちが良かった。無表情ながらに前よりも軽やかに見えたその表情が印象的で、その試合から俺は見事に角名倫太郎という一人の選手に囚われてしまったんや。

そりゃもう見事に落とされた。世界が輝いて見えるとはこのことかと思った。ドックンドックン言うとる心臓が痛い。あれ?これ興奮でドキドキしとるだけよな?動悸やないな?おじさんはその違いがちょっとわかりずらいから心配になってまうわ。思わず息を止めて観戦していたため、急に酸素を取り込んだ肺もヒュウヒュウ言っとる。息切れ気味で酸欠の頭がぼやぼやしとって危ない。

動悸・息切れの気つけに救心帰ったら飲まなとか心配しとるおっさんが、高校生というまだまだ子供の倫太郎を推しという目で見るのは如何なものかとはちょっと思うが、この気持ちはもう止まらへん。あの日から数ヶ月、俺は倫太郎に幸せを貰い続けとる。


「私、あの時からおじさんのこと知ってます」

「そんな前からか?」

「あの時叫んでたでしょ?泣きそうになっちゃった」

「あれ聞いとったんか!恥ずかしいなぁ」

「あれからずっとずっとお話してみたかったんです!!だから、稲荷崎に来れてよかった」

「そうか、俺なんかでよければ、いつでも話しかけてええからな」

「はい!」


練習試合2試合目が始まる。倫太郎はダルそうにしながらゆっくりとコートに集合した。あの顔は次はちょっと手抜いたろとか思っとるな。けど多分それは無理やと思うで。俺の勘だと次は北くんが入る。

案の定北くんが投入されて、少し気まずそうな表情を浮かべている倫太郎を見て2人で笑った。

倫太郎、今日もおじさんは元気もろてるで!


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