がんばれ!倫太郎!




「貴方は…!倫太郎おじさん!?」

「倫太郎、おじさん…!?」


今日も今日とて稲荷崎高校へと足を運ぶ俺は、ギャラリーへと続く階段を息を上げながら昇っとった。そこで突然話しかけてきた女の子はよく分からん単語を残し、こちらを見ながら目を輝かせている。


「角名くんの熱心なファンがいるって!有名ですよ!」

「お、俺がか!?」

「勝手にみんな倫太郎おじさんって呼んでます!」


倫太郎おじさん…。確かに俺は言葉通り倫太郎おじさんや。彼のバレーボールに魅せられ、今では彼自身にも惹かれとる。ただそんな周りの人らにも知れ渡ってるなんて思っとらんかった。恥ずかしいな。これもしかしたら倫太郎の耳にも入っとるんやろか。倫太郎おじさんとか呼ばれとるおっさんがおるでとか言われて揶揄われて迷惑がられてたらどうしよ。あかん、焦ってきた。


「私も角名くんのファンで、いつかお話してみたいと思ってました!」


可愛らしい、これはたぶんポニーテールってやつを揺らしながら近づいてくるこの子は稲荷崎高校の制服を着とる。現役の稲高生やろか。頬に手を当てながらキャッキャと飛び跳ねる姿は何とも可愛らしい。

高校生の子らもこのギャラリー内にはたくさんおる。それこそ団扇を持ったりしながら、この泥臭い男子高校生の部活動に華を添えとる。選手からしたらどうなのかは知らんけど。せやけどその子らの目当てのほとんどは宮兄弟や。あいつらはプレーは派手だし目立つ。言動もハッキリしてて解りやすくて見てておもろいし、双子っちゅー要素も人気の秘訣だろう。あとなんと言っても顔がええ。まじで。

倫太郎にももちろんファンは居るはずやが、彼自身があぁいうタイプやからか派手に目立った応援をしている子は少ないように思う。せやからこういう、言葉は変やけどいかにも女子高生っぽい女子高生が倫太郎推しだと言っているのは何だか珍しくて貴重な気がした。


「良かったら一緒に観ませんか?」

「え?」


ええんか?絵面的に。別に邪な気持ちなんて一切持たんけど、女子高生の横に立って話をするおっさんってだけでアウトちゃうか?でも俺らは倫太郎仲間やしな。倫太郎のファン仲間と一緒に観れるなんて、こんな機会はなかなかあらへん。細かいこと気にせんととりあえず楽しも思う。


「あっ、こっちみた。角名くーーーん!」

「げっ」


嬢ちゃんに気づいた倫太郎はあからさまに顔を歪めた。なんや?その反応は。女の子に名前呼ばれて手を振られるって嬉しくないんやろか。ゴソゴソと持っていた大きなカバンを漁る嬢ちゃんは、中から大きくて薄っぺらい物体を取り出した。何やそれ?と聞くまもなく理解したその物体は、まさしく名前入りの団扇や。

おおーーー!!倫太郎の名前入りの団扇!!侑と治以外の名前の団扇とかもしかしたら初めて見たかもしれん。


「写真撮ってええか!?」

「どうせなら私が撮るのでこれ持ってみません?」

「えぇ!?ええんか!?!?!」


願ってもない展開に大喜びや。これもって応援するのはおっさんとしてダメやろと自分を制してきたが、一度くらい持ってみたいなと思うのはファン心や。右手に「りん」左手に「たろ」と書いてある団扇を持って胸の前に掲げる。どの界隈かは知らんが団扇は胸の位置より上に掲げちゃあかんっちゅうのを聞いたことがある。

凄い。ただ持っとるだけなのにめちゃくちゃテンションあがるな!!これもあるんですけどと追加でカバンの中から取り出されたのはクマのぬいぐるみで、そのクマは手作りであろう稲荷崎バレー部のユニフォームとジャージを着ていた。


「服作ったんかこれ!?」

「そうなんですー!裁縫は得意なんです!」

「うおお、器用やなー!」


続々と出てくるファングッズに思わず胸が高まる。ええなぁー!俺は女子高生やないからこんなん持ったら周りに引かれてしまうやろ。自分がおっさんであることを初めて悔しく感じたわ。

パシャパシャとスマホで写真を撮ってくれるその子は送るから連絡先教えてください!とキラキラした目で言う。いや、いやいやいや。さすがにそれはアカンやろ。案件や。女子高生とおっさんが連絡先交換とかさすがにアカンやろ。「写真欲しくないですか?」欲しいです。俺のLINEのIDはこれです。あぁ俺の阿呆。欲には逆らえん。

今日も練習試合が始まる。目の前には推し。隣には推しを応援する仲間。最高やな。今日はうまい酒が飲めそうや。

さぁ倫太郎、今日もぶちかましたれ!


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