凄いぞ!倫太郎!





突然ですまんけど、俺の推しを紹介しようと思う。

稲荷崎高校男子バレーボール部の角名倫太郎。2年生でポジションはミドルブロッカー。185.7cmでMBにしては小柄とか言われとるが俺なんかよりはむっちゃデカい。応援しに来た同級生の子らが話してた噂によると彼の好物はチューペット。アイスは溶けてまうから差し入れ出来んし俺としては他の好物も知りたいところや。

相手のブロッカーを操る倫太郎の速攻は何回見ても気持ちええ。他校のやつらに"センスの塊"と言われとるのを耳にする度にファンとして鼻が高い。全然ぶれん体幹の良さは見てて安心するし、止めた思った相手ブロッカーたちが抜かれてビビっとる様を見るのはこっちまで快感や。スロースターターなんがたまに傷やけど、そんなところもまだ未熟な高校生って感じで今後に期待できてええやろ。

今日は練習試合が行われていて、稲荷崎高校のギャラリーにはぎょうさん人が溢れとる。町内会のバレーファンはもちろん高校生まで、老若男女問わずまるでアイドルみたいに稲高バレー部は大人気や。

キャーキャーと黄色い声を上げながら名前入りのうちわを持って応援しとる女子高生たちは、お気に入りの選手を目を輝かせながら見とる。最初にうちわを見た時はびっくりした。俺はおっさんすぎてそんな方法全然思いつかんかったし、仮に思いついたとしてもそれを持って応援とかさすがにアカンやろ。俺は楽しいかもしれんが、おっさんがそんなん持っとったら倫太郎がびっくりしてまうからな。そこは良識を持って推しに接していきたい。推しに恥をかかせるんはファン失格や。


「あっ、こっちきた!試合始まるっぽい!」


選手たちがアップを終えて挨拶のためにこちらへやってくる。主将の北クンの指示通り、一直線に綺麗に並んだレギュラーの子らは、挨拶の声と共に一斉に頭を下げた。

倫太郎、今日も頑張れ。ここからちゃんと見とるからな!と心の中で叫ぶ。実際に叫びはせん。迷惑やからな。熱い視線を送っていると、顔を上げた宮侑の方が倫太郎の肩をチョンチョンと叩いた。同級生と仲良うする倫太郎、良い。

切れ長でダルそうな目もええな!もう全部ええよ!と柵を握りしめながら見つめていると、今度は宮治の方がこちら側を指さした。何かあるんかなと後ろを確認するが特に何もない。何やろと思いながら前に向き直れば、倫太郎が、こちらを見ている。

ん、んんんん、え、これ俺を見とる?いや違う?アイドルとかのオタクが「目合っちゃった」って言っとるの毎回気の所為やろ馬鹿やなとか思っとったけど、これ確実に目合っとるやろ!?勘違いでもええ。勘違いでもええから思い込ませてくれ、幸せな気持ちをありがとう…!!!

思わずバッと両手でニヤケの止まらない口を覆う。すると倫太郎はそのままスっと片手を上げて、手でキツネを作った。このキツネは稲荷崎のファンサービスでよく使われるポーズで、宮兄弟なんかはよくやっとるが倫太郎がそれをするのは結構珍しい。

それを、こちらに…?辺りを見回してもここら辺に倫太郎のファンと思われる人はいない。お、俺か?俺なんか?ドキドキしながらこちらも手でキツネを作ると、無表情がデフォルトなあの倫太郎が片方の口角を僅かに上げ、フッと笑ってぺこりと頭を下げた。

俺、俺、俺へのファンサーーーーー!!!!なんやその笑顔あかーーーーーーん!!!!あかん倫太郎、あかん、あかんで!高血圧気をつけろ言われとんのやからこんなんされたら本気で倒れてまう!!!つか認知されとる?もしかして俺、倫太郎に認知されとる?やばい、興奮止まらん。

鼻息が荒くなるのは許してくれ。興奮したおっさんが女子高生の横に立っとるとか完全にあかん絵面やけど今だけは見逃してくれ。俺は、俺は今世界で一番幸せな男なんや。

目指せ倫太郎TOなんて思わん。オタクにトップも底辺もあらへんのや。それでもあの瞬間だけは倫太郎の視線を独り占め出来てしまったという感動が止まらん。この事実を世界中のみんなに自慢して回りたい。


「推し、尊すぎる…!!!」


出会ってくれてありがとう。最高の推しや。倫太郎が今後どんな進路に進むかはわからん。けど倫太郎がコートに立っとる限り、俺は倫太郎を応援し続けると誓う。

溢れ出る涙と脂汗を拭いながら、今後の倫太郎の活躍と健康を願った。


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