「寂しい〜〜〜」
「なに急に。いつもの発作?」
「みぃちゃんは大学生の彼氏と毎日会えないの寂しくないの?」
「毎日会えりゃそりゃ嬉しいけど、離れてる分会えた時嬉しいからな〜」
ついに明日から夏休み。今日は一学期最後の日で、授業は無いため終業式とHLの為に登校している。終業式の最中だと言うのに列の一番後ろに固まってコソコソと話し込んでいるのはいつもの我がグループである。
「夏休み会えばいいじゃん」
「でも孤爪くん部活で忙しいしなぁ」
「だからってオフはあるでしょ」
「うん、たぶん」
「研磨に部活の日程聞こうぜ、ウチらみんなで遊ぼ」
「それ孤爪くん来てくれるかな…?」
眠い校長の話なんて誰も聞きやしない。各々好きなことをぺちゃくちゃといつも通り話すだけ話してると、やっとこさ終業式が終わる。
あとは教室に戻ってよくわからない夏休みの注意事項と、夏期課題の説明を受けたら解散だ。
クーラーが微妙に弱い、ほのかに暖かい教室の中で夏休みのことを考える。海、山、花火。夏といえばいろんなイベントがあるが、どのくらい行けるだろう。孤爪くんはいつも通り部活で忙しいはずだ。春高に向けて頑張っているのを邪魔したくはないけど、少しくらいは会えたらいいな。
「研磨!夏休み遊ぼ!!」
「……はぁ?」
「いいじゃーん!海?やっぱ水着とかよくね?今年は新しいの買うし!」
「いい」
「何でよ!黒センにLINEしたらノリノリで返信きたよ」
「日焼け怖いしクリーム買わなきゃ〜って。爆笑〜」
「……ハァ」
相変わらず私よりもガンガン行く友人たちに圧倒されながらその会話を見守る。海ではしゃぐ孤爪くんとか全然想像できないな、二人で砂浜でゆっくりするのもいいなぁ〜と一人脳内妄想を繰り広げていると、不意にこちらに視線を向けた孤爪くんと目が合った。
「館さんは行くの」
「行く!海好き!」
「新しい水着選びに行こうなー!」
「うんうん、今から楽しみ〜」
ワンピースタイプもいいけど、最近よく見かけるタンキニタイプもいいなぁとワイワイその場で盛り上がる。するとそんな私たちの会話を聞きながら、ハァと再度ため息をついた孤爪くんが、水着持ってないんだけどと面倒くさそうな表情を崩さずに口を開いた。
「んじゃみんなで買いに行くべ!」
「研磨いつヒマ?」
「来週からしばらく合宿」
「んじゃそれ終わったら!な!」
「…断ってもどうせ無理やり連れ出すんでしょ」
「わかってんじゃん!つか断んなよ、ウチらもうマブじゃん!」
「なにそれ、意味わかんない」
孤爪くんの合宿が終わったら会えるのか。楽しみだなぁ。夏休みも会えるのにも、もしかしたら本当に一緒に海に行けるのかもしれないというのにも、嬉しくて思わず顔がニヤける。水着は孤爪くんに決めてもらおう。どうしよう、めちゃくちゃ楽しみ!
そう思っていたけど、その前に起こるかもしれない出来事を不意に思い出してしまった。
「合宿…」
梟谷のあの人たちと一緒の合宿か。何も起こりませんように、と心の中で手を合わせる。幸いこの数日間孤爪くんに変化はなく、ちゃんとお願いした通りに梟谷のみなさんは孤爪くんにあの日のことを伝えてはないらしい。
「孤爪くん、合宿、本当に気をつけてね…!」
「?」
「一見優しそうに見えて考えが読めない人とかとお話しちゃだめだよ!」
「…何の話?」
赤葦くんの最後の微笑みを頭に浮かべながら孤爪くんに伝える。怪訝な顔をしてこちらを見つめるその表情ですら好きだ。
「合宿長いなぁ〜。寂しいね」
「1週間なんてすぐだよ」
「それでもこうやって毎日のように顔見て、お話してって出来なくなるの、寂しいじゃん!孤爪くんも少しは寂しいって思ってよ〜!」
「えぇ…ウザ…」
呆れたような顔をする孤爪くんに椅子ごと近づいて腕にまとわりつくと、イラッとしたような顔をした孤爪くんがこちらを向く。ので、孤爪くんが口を開く前に先手を打った。
「離れてって言わないで!」
「言われるのわかってんならやるのやめて。離れて」
「充電させて充電〜!!!!」
なっち達の笑い声にも、またやってるよとクラスのどこからか飛んでくる声も全部全部無視だ。1週間分の充電をしようと孤爪くんの引き剥がし攻撃に耐えていると、呆れたようなみぃちゃんが「会えなくても電話とか出来んじゃん」と口を開いた。
「…で、電話!」
「え………」
「電話!!!」
「…………え」
目を輝かせる私と、対照的に眉間のシワを深めた孤爪くん。キラキラとその目を見つめると、今までの倍の力でべりっと引き剥がされた私は呆気なく孤爪くんから離れることとなった。
「……………無理」
「なんで!」
「話すことない」
「そんな冷たいこと言う!?!?」
えーんと泣き真似をしながらも、でも孤爪くんも絶対疲れてるから無理しないで良いよと言うと、うん分かったと考え込む間もなく頷かれてしまう。フリでもいいから少しくらいは迷って欲しかった!!!
「森然高校乗り込んでやる!」
「ひそかにそんな度胸あるの?」
「無いに決まってる!!!」
「じゃあ言うなよな」
1週間くらい我慢しろ〜というなっちの言葉に深く頷く孤爪くんは本当に寂しくないのかケロリとしている。まぁ孤爪くんに話しかけることが出来なかった期間も生きてはいけたし我慢しよう。面倒くさい女は嫌われるからね!
寂しさ埋めるために私が遊んでやるよ〜!と肩に腕を回して絡んできたなおピに、彼氏いないから暇だもんね!助かる!と言い返すとバシンと頭を叩かれた。痛い。馬鹿になったらどうするんだ。
「たまにくらいならLINEするよ」
「…………え?」
「………だから、本当に少しでもいいならLINEくらいする。毎日は無理だけど」
「えっ、良い!全然良い!スタンプだけでも一言だけでも良い!やったー!」
「ちょっと、離れて」
「こっちからは毎日するね!既読無視でも全然いいし!未読は悲しくなるから、読まなくてもいいから既読だけはつけて欲しい!」
「ねぇ聞いてる?離れて欲しいんだけど」
ぎゃいぎゃいといつも通りのうるささで、私たちの怒涛の一学期は幕を閉じた。
ちなみに、やったぁやったぁと騒ぎまくる私たちはなおピだけではなくクラス中の色んなところから写真やら動画にやら収めらてしまったらしい。
色んな人達のストーリーズに『これもしばらく見れない光景』と載せられてしまったせいで、その日の夜中に速攻孤爪くんからお怒りのLINEが飛んできたのは言うまでもない。
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