ただそばに居てほしいだけよ わかる?

次の日になっても館さんは来なかった。あの三人によると、どうやら風邪が長引いてしまっているらしい。

らしい、なんて自分からは聞いていないのと言われそうだけど、ちゃんと聞いた。でも返事は来なかった。既読の表示すらついていないトーク画面を確認してはため息ばかりが出る。

忙しくても既読だけつけてくれればいいからとよく館さんが言っていた。今になってやっとその気持ちがわかる気がした。本当なら返信が欲しいけれど、既読さえつけてくれていれば、見てはくれているんだなっていうのがわかるから。

あの三人には確実に返信してるし、ブロックされていない限り館さんはおれからのメッセージが届いていることには気がついていはずだ。つまり、スルーされている。


「落ち込んでる?」

「そんなことないし」


いつも嫌味たらしくそう聞いてくるのは決まって立花だ。おれと館さんのことはあの三人に聞いたらしい。なんで勝手に話してんの。そう言いたいのが顔に出てしまっていたのか、立花はまた面白そうに口角をあげた。なんかムカつく。


「初めてなんじゃない、館さんに拒絶されんの」

「…………」

「いつも館さんに甘えてるもんな」


そんなことないと言いたいけど、また反論の言葉に詰まる。館さんはおれが何も言わなくったっていつだって必要以上に自分の気持ちを伝えてくれるから、それに甘んじているところがあるのはおれだって自覚済みだ。自分でもちゃんと気付いてる。こういう時どんな風に声をかけていいかわからないのも、今まで自分から動いていなかったせいだ。

館さんはおれのこと好きだし。なんて、そんな風に考えていたのは本当のことだ。当たり前のように好いてくれるということがどれだけすごいことなのか、わかっているようでわかってなかった。

そして、自分がこういう状況になった時に、面倒臭いと思うんじゃなくてちゃんと焦っているということにも驚く。館さんのことはちゃんと好きだと思ってたけど、自分がこんなにも彼女のことをしっかりと好きで、自分らしくないくらいに期待したり、落ち込んだり、心を動かされているんだということを改めて自覚した。

今まで、気付けているようで気がつけていなかったのは、完全な甘えだと言われても仕方ない。


「でも立花に指摘されるのはいや」

「わがまま」

「もうなんでもいい」


廊下の壁に寄りかかって脱力するおれに立花は笑った。立花はお節介だ。クロとか、バレー部のみんなもそうだけど。あの三人もそうだ。みんなみんな、他人のことに頭を突っ込みすぎ。

でもよかったとも思う。おれにはこんな経験がないから、たとえ揶揄いながらでも導いてくれる人がいるのはありがたい。面白おかしくこの話題で引っ張られるのは面倒くさいけど。

教室移動のために廊下を歩きながら、既読もつかないトークルームを開いた。館さんは今まだ寝ているかな。こんなに何日も休むなんて相当酷かったりするのかな。放課後は今日もしっかり部活がある。その後に会いに行くのは遅すぎる時間だ。バイト先に突撃するならまだしも家に行かなきゃならないのは厳しい。

もう一度ため息を吐いた。言い訳を並べている暇はない。彼氏と喧嘩して謝りかたに悩んでいるというあの人たちからの相談に、自分の気持ちをそのまま送信すればいいじゃんなんて一丁前に答えたのはおれだ。彼女はその後その彼氏とどうなったのかはかわからないけど、あれ以上騒いでないということはうまくいったんだろう。

だからおれも今の気持ち全てを文章にした。本当は直接会って言いたい。でもタミングは逃しちゃいけないから、会えた時にまた話せばいい。

あんなことを言ってごめん。おれのことを考えてくてありがとう。でも考えられすぎて館さんとの接しかたが変わってしまうのは望んでない。行事とかには全く興味なかったのに。今でも特別興味ないのは変わらないけど、でも館さんと過ごすことを考えると、ちょっとだけいいななんて思ってしまったりもする。館さんがどう思うかはわからないけど、おれは一緒にいたいと思うんだけどどうかな。

どうやって書けば、どんな言葉にすればかっこ悪くなくなるかなんてわかんない。でもかっこ悪くならない言葉にしたら、きっとうまく相手には伝わりきらないんだ。本音をそのまま言葉にするからこそ、かっこ悪くてダサくても伝わるものが確かにある。館さんがいつもそうだ。

送信された、普段のおれが送るには長すぎる文章を読み返した。読み返して、やっぱりダサくて眉を顰めた。でも後悔はしてない。最近あんまり触れられてなかったアプリゲームを起動して、目的の教室までの道を歩いた。


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