グルグルメリーゴーランド

「バイトまで暇だから遊んで!」といつもの仲間たちのところへとルンルンと向かった放課後。「今日はうちもバイト」となおぴに断られ、「私は彼氏の家行く」とみぃちゃんにも振られ、なっちも「私も今日は予定あるから今度ね〜」と颯爽と教室を去っていった。


「そんな!!」


バレー部の見学に毎日行くのはさすがに迷惑かなぁと思うから、今日は別のことがしたかったのに。仕方がないからバイトの時間までウィンドウショッピングでもするかなぁと、近くのショッピングモールをふらふらしてみる。可愛い新作のお洋服が目に入って、欲しいなぁどうしようかなぁと迷っているところで「あ」と短い声が聞こえて振り返った。


「立花くん!」

「館さん、久しぶり」

「久しぶりー!なんか焼けたね」


たまたまここに入っているスポーツ用品店に用があったらしく、立花くんもここを通ったらしい。夏休み前に見た時よりも若干こんがりとした肌の立花くんは、元々かっこいいのにさらに男度が増した気がする。


「それより孤爪とうまく行ってるようで良かったじゃん」

「え!?えっと………へへ、おかげさまで」

「顔ゆるゆるだよ」


ぐっ。指摘されるのはちょっと恥ずかしいけれど緩む表情は止められない。どうにか誤魔化そうと両手でぽっぺを覆ってみるも「嬉しそうな目が隠せてないよ」とさらに指摘されてしまった。ダメだ、この表情を隠すには顔を取るしかないよ。つまり無理ってこと。立花くんは一体何がそんなにおかしいのか、先ほどからずっとニコニコと笑い続けている。え、私そんなに変な顔してたのかな。にやけた表情はしてたと思うけど、そんなに変だった!?

あわあわと焦っていると、やっと少しずつ笑いのおさまってきたらしい立花くんが「うん、やっぱり館さんと孤爪、他の奴らが思ってる以上に相性良いと思うよ」なんて言いながら爽やかに笑った。


「…………館さん?」

「………っ」

「何でそんなに泣きそうになってんの!?」


ちょっとちょっと、と焦った様子の立花くんは通路の端に私を引っ張ってわたわたと慌てている。じわじわ上り詰めてくる涙で鼻の奥がツンとして痛いけど、絶対に溢さないように頑張って堪えた。


「立花くんにはっ、大変お世話になりました……!」

「そんなのいいって!」

「でもっ!」

「館さんに言ったことは本心だったし、今のこの気持ちも本心だよ」

「……うぅっ、立花くん、良い人すぎる〜!!」


立花くんが私に伝えてくれた気持ちも言葉も、とってもとっても勇気をくれた。これから先立花くんに対して私に出来ることがあるのかなんてわからないけど、もしも立花くんが悩んでいたら、私も絶対話を聞いてあげるって今決めた!

気合い入れにぱちんっと両手で頬を叩くと、驚いた立花くんが「何してるの?痛くない?」と心配そうにする。「大丈夫!これは私の覚悟なので!」と伝えると不思議そうな顔を向けられてしまった。ニッと笑うと「よくわかんないけど、なら良いや」と同じように明るく笑い返してくれた。

男子でも良く話す人はまぁいるけど、その子たちと特別仲が良いかと言われるとそうではない。バレー部の人たちはみんな仲良くしてくれるし、友達だと思っている。そんな中で立花くんは、バレー部以外で出来た唯一の仲の良い男友達だ。


「孤爪に嫌なことされたらすぐに言ってね。って思ったけど、孤爪は館さんの嫌がることしなさそうだな」

「よくおわかりで!」

「ははっ、清々しいほどに入り込む隙がなくて気持ち良いよ」


そろそろ行こうか、そう言った立花くんの言葉にうんと頷こうとした時、ドンっと後ろから人がぶつかってきて思わずよろけた。「ごめんなさい!」とすぐさまその人の方を向けば、その人も申し訳なさそうに笑いながらぺこっと頭を下げる。


「…………」

「どうしたの」

「あの人、私見たことある」


どこかで。どこだ。いつ。割と最近な気がする。いや結構前かな?誰だっけ。顎に手を当てながらウンウンと唸っていると、記憶のピースがぴたりとハマってその人が誰だったかを思い出した。


「立花くん!あの人どっちに曲がったか見てた!?」

「左、だけど」

「行こう!」

「えぇ!?ちょっと館さん!?」


こうしちゃいられないとバタバタと駆け出した私のあとを追いながら、訳がわからないという顔をした立花くんが「なに、誰なのあの人」と声をかけてくる。「あの人はね」そう言いかけたところで探していた人物の後ろ姿を見つけた。


「いた!」

「どっち?男?女?」

「男」


腕を組んで歩く一組のカップル。二人とも笑顔で幸せそう。いつもだったら、いいなぁ私も孤爪くんとあんな風に歩きたいなぁなんて羨ましく思いながら、頭の中で自分たちに重ねてキャーとか言って楽しく想像するけど、今はそんなことは考えられない。

あの楽しそうな横顔を、私も見たことがある。派手な外見ではないけれど程よくチャラそうな感じ。忘れるはずがない。だって、あの人は。


「見たところ普通のカップルだけど……って泣いてる!?」

「立花ぐん……!!」

「なに、本当に一体どうしたの」

「あの、人は……!!」


あの日、渋谷で私たちに話しかけてきたなおピの彼氏だ。


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