Mr.Moonlight

※本編から数年後の話(黒尾連載散ればこそ時間軸ですが読んでなくても何も問題ないです)



ウィンター!冬!やったー!この季節はいろんな楽しいことがある。クリスマスにお正月、スノーボードにスケート、初詣にイルミネーション。そのどれもが魅力的で、寒いのはまぁあんまり好きじゃないけど冬のイベントは全部大好きだし、結果的に冬はやっぱ好き。


「ね!研磨くん!好きだよね!」

「は?また勝手に脳内で会話完結させてない?」


窓際でピカピカキラキラと光る星たちを見上げていた視線を部屋の中に戻して、大きくガッツポーズをしながら研磨くんへと問いかければ突き返されるような返事が飛んできた。まぁ確かに今の聞き方は私が悪いんだけど!

こたつに入ってゲームをする研磨くんはその手をとめようとはせず、馬鹿なこと言ってないでこっちくれば、そんなとこいたら寒いでしょなんて言うから嬉しくなって研磨くんの隣へといそいそと座り込んだ。


「こっちって隣って意味じゃなくてただこたつ入ればって意味なだけだったんだけど」

「えー!いいじゃん一緒に入ろ?」

「同じとこに入るんじゃどう考えても狭いのわからない?馬鹿なの」


ぎゅうぎゅうといくら押しても、研磨くんは場所を詰めてあげようという気が少しもないのかその場からぴくりとも動かない。もうバレーもやめて随分経つし年中家にいるって言うのにどこにそんな力があるんだ!かっこいいなぁ!

仕方がないから片足を押し込んでいたこたつから抜け出して、研磨くんを押すのもやめた。やっと退いたとホッとしている研磨くんの後ろに素早く飛びついて覆い被さるように体重をかける。


「……………重い」

「重くない!」

「いや、重いよ」


ゲームの画面を一時停止して退けとでも言うように凄い顔でこちらを振り向く。最初はこの顔にもビクビクしてたけど、さすがの私もこんなにも長い間研磨くんと一緒にいるんだ。もうこれが本気で怒っているのかそうじゃないのかくらいの判断は簡単につくようになった。

そのまま首に腕を回してダラッと全体重をかけると「勘弁して」と呆れた声を出しながら研磨くんはズルズルと横に倒れた。床に寝転んだ研磨くんに寄り添うようにしてぴっとりとその背中にまとわりつく。そのまま少しの間二人して何も言わず、動かず、ただぼーっとくつついているとテーブルの上に置きっぱなしの研磨くんのスマホがブルブルと震えた。

ダルそうに手を伸ばすその仕草を見つめる。研磨くんがゆっくりとメッセージアプリを開く。後ろから抱きついているからその画面は丸見えで、送られてきた内容も送っている内容も全部筒抜けだけど、研磨くんはそういうのを気にしそうに見えて意外にも気にしないらしい。本人曰く「クロとかリエーフみたいに変なやり取りなんてしてないし、見られちゃいけないものも気まずいものも何も無いから」とのことだ。


「翔陽くん元気そうだね」

「そうじゃなきゃ困る」


翔陽くんは研磨くんのお友達で、よくチームメイトと一緒に撮った写真を「見て!ちょーすごい!」と色々勉強して語学力は上がっているはずなのに相変わらずの語彙力な文章と共に割と頻繁に送ってくる。そんな写真を見るのが研磨くんはどうやら気に入ってるっぽくて、研磨くんは否定するけど画面を見つめるその顔はどことなく柔らかい。


「私にも構って欲しい〜!」

「痛っ、ちょっと背中で駄々こねるのやめて」

「可愛い彼女が拗ねちゃうよ」


プクッと頬を膨らまて訴えてみれば、「この歳になって自分でそれ言う?」と呆れた顔で振り向くからその頬にぶすっと指を立てた。はぁと息を吐きながらその指をどかしてのそのそと起き上がった研磨くんは、寝転がったことでズレてしまった両サイドの髪を留めていたヘアクリップを付け直した。

そのクリップは以前私が使っていた女子御用達の人気キャラクターのもの。私がメイクする時に使っていたやつを日中勝手によく研磨くんが使っていたから、キャラクター違いの新しいのを買ってあげた。なのに研磨くんったら古い私のやつばっかり使うので、結局そっちをあげて今はその新しいやつを私が使っている。


「今年の冬は何するの」

「へ?」

「毎年毎年アレしたいコレしたいってうるさいじゃん」

「え〜そうだなぁ〜」


去年は六本木のクリマに行ってツリーを見てはしゃいだ。ちょっと電車に乗ってプチ旅行みたいにライトアップを見に行ったりもした。研磨くんは嫌がるからウィンタースポーツ系にはいつもの友人達と行くし…今年はどうしようか。やりたいことはたくさんある。むしろありすぎて決められない。高校の時から頭の中で考え続けている"研磨くんとやりたいことリスト"はどんどん消化されていくのに、その数倍の速さで追加されていくから大変だ。

あれもいいな、これもいいなとウンウン唸りながら考えていると、スマホのゲームを再開した研磨くんが「何も無いなら」と静かに口を開いたので、私も寝そべっていた体を起こした。


「すっごい王道だけど、まだそれに似合う歳じゃないからって今まで避けてきたホテルとかディナーとか、予約してみる?」

「えっ!」

「どこがいいんだろ。調べるのは面倒だから勝手に決めていいよ。おれはどこでもいいから」

「う、え、私が決めるの!?」

「何がいいのかとかよくわかんないし」


えー、どうしよう。まずはどこのエリアがいいんだろう。銀座?丸の内?お台場?それとも横浜?行きたい場所は沢山ある。テレビで特集されてたり、雑誌に載ってたり、ネットでたまたま見つけたり、みぃちゃんとかなっちが話してたり。いつか研磨くんと行ってみたいなと思っていたところをたくさんたくさん思い出した。


「ねぇ、やっぱり研磨くんも一緒に決めよ?」

「だから、おれわからないって」

「でも!一緒に楽しむんだから、研磨くんと一緒に決めたい」


スマホで検索アプリを起動して、クリスマスの特集が組まれたサイトをスクロールした。ディナーに部屋に景色に、何をメインにしよう。どんな所がいいのかな。可愛さ?綺麗さ?美味しさ?やっぱり1人じゃ決められないなぁとタップを繰り返した。

さっきまで聞こえてきたゲームの音がいつの間にか止んでいたことに気がついて画面から顔を上げる。こちらをジッと見つめる大きな目と視線があって、私が気がついたことに気付いた研磨くんが少し眉をひそめて「そういうとこ」と呟いた。


「ん?」


ぱちぱちと瞬きを繰り返せば、「………おれはひそかが楽しめるんならどこでもいいと思ってるんだけど」と少し口を尖らせた研磨くんがボソボソと話し出す。


「人それぞれ考え方は違うから一概には言えないけど、クリスマスくらいは少しは彼氏らしいことしたいと思ったりする。でも詳しくないおれが勝手に決めてもそれが良いのか悪いのかもわからないし…というか楽しんでもらうんなら本人が決めたところが一番良いはずだよ。俺はどこだって良いわけだし。あーこのどこでもいいって言うのは別に面倒だからとかやる気がないからとかじゃなくて、えっと、つまり」

「ま、待って待って研磨くん、ストップ!」


なんかたくさんたくさん色んなこと言われたけど言われすぎて頭が追いつかない。普段あまり喋らないくせに、たまにこうやってマシンガントークの如く話し倒して、話しながら自分自身が一番こんがらがってる研磨くんをもう何回か見てきた。頭が良いはずなのに、良いからなのか、たまに溢れかえって収集がつかなくなっている。

頭にはてなマークを浮かべながら顔をゆがめる研磨くんの正面に股がってあぐらをかいて座っている膝に乗った。ぴったりとくっ付き合うこの体勢はとっても好きだけど何回やってもちょっぴり恥ずかしい。そのままぎゅーっとくっ付いて研磨くんの頭を私の肩に押し付けるように抱え込むと、やっと意識を取り戻したのかハァと短い息を吐いて同じように研磨くんも私の頭を抱え込んだ。


「つかれた」

「まだなにも始まってもないのに」


研磨くんはハァ〜と今度は大きく長い息を吐いて、私を抱え込んだままゴロンと床に転がった。そのまま足も絡めてくるから私はその場から動けなくなる。


「もう寝るならベッド行こ?」

「うん」


でももうちょっとだけこのまま。そう言って動く気配もなく私の胸元にポスンと顔を埋めた研磨くんは、ゆっくりゆっくり目を閉じて、いつものようにフッと短く笑った。

出会って何年経ったって、研磨くんが大好き!


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