「今日ね、いい夫婦の日って言うんだって」


ふと何気なくカレンダーを見て、そういえば誰かが以前そんなことを言っていたのを思い出した。この日を狙って入籍するカップルも多くいるらしい。私たちは特に記念日とか語呂合わせの良い日にちは選ばなかったのですんなり手続きが済んだけれど、今日の役所はさぞかし混雑したことだろう。


「………役所行くの、今日の方が良かったか?」


特に深い意味もなく、なんとなく思い出したからという理由で口にした言葉だった。だが信介は真剣に受け取ってしまったようで、ジッとこちらを見ながら様子を伺っている。


「ううん」

「そうか」


そのまま今まで読んでいた新聞に再び視線を戻した信介の方へと向かうと、チラリと一瞬こちらに視線を向けて、私が座りやすいように少し場所を開けてくれる。その隣へと腰掛けてそのまま信介の肩に体重をかけると、「どうした」と言いながらも片手で体を支えてくれた。


「記念日は今日じゃないけど」

「ん、?」

「この日は良い夫婦として過ごせる毎年にしようね」


体を支えてくれた手がするすると頭に移動してポンポンとリズム良く叩かれる。「俺は」と静かに口にした信介の方に顔を向ければ、そっと新聞を置いてこちらを向いた視線と絡み合う。


「この日だけやなくて、他の日も良い夫婦で居りたいんやけど」


真面目な顔をしてそんなことを言うものだから、思わずふふっと吹き出せば信介は少しだけ眉をひそめた。「笑うところか?」と少し不満そうな声を出す彼が面白くてさらに笑えば、「なんやねん」と呆れたように釣られて信介も笑った。

こんなふうに毎日過ごしていきたいと思った。毎年11月22日は、それを確かめられる日にしていければいい。



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