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そっからのアイツの働きはすごかったぜ。

あっという間に兄王達の教育をし終えて、威張りくさって生きていた貴族でさえも大人しくさせたんだ。

それから国は大きく変わった。

貧富の差は殆どなくなって、皆が幸せになってきたんだ。

それを風の噂でアリババのおかげだと知ったバルバットの人々はアリババに対して感謝の意を込めて「怪傑アリババ」の話を作ったんだよ。

アリババの事を国だけではなく、ほかの国にも知らせようとしてね・・・。

国中の人間がアリババに感謝している頃だったかなぁ、アイツと再会したのは。

背も大きくなったアイツは今でも見違える程だったよ。

「よぅ!!頑張っているか相棒。」

『そっちこそ、相棒』

ガシッと二人は手を組み、二人そろって笑った。

「『当たり前だろ!!』」

俺はアイツが居なくなってからの俺の出来事を話したんだ。

仕事の事、妹の事、仲間たちの様子とかな。

アリババはそれを嬉しそうに聞いていて、アイツも自分の事を話した。

兄王たちと仲良くやってるとか、剣術稽古は大変だとか、そんな感じだな。

それで一通り自分達の事を言った後だった、アイツが急に

『この国をでようと思っている。』

そりゃぁ、もちろん驚いたさ。

でもアイツの急すぎる発言には慣れていたからな、俺は冷静に返したさ。

「なぜ急に?」

『この国が平和になったらと、ずっと考えていた事だ』

アイツは今まで城にいてスラムでは分からなかった世界を知った。

そして世界の異変に気づいたんだ。

そう言ったカシムの言葉にシンドバットは反応した。

彼もそう思っていた一人だからである。

『俺はその原因をつきとめたい』

その時のアリババの目を見てもう悟ったさ。

もう何も言ってもダメだって・・・。

「わ〜ったよ。お前が言った事は曲げないって俺が一番よく知っているからな。」

さっきまで真剣な表情だったくせにその一言でガキみたいな笑ってアイツが喜んでいたなぁ。

そして3年前のあの日のように、俺たちはまた握手で分かれた。

「またな」

『あぁ、またな』




「っとまぁ、こんな感じだ。」

カシムはニパッと笑って辺りを見渡した。

アラジンとモルジアナ、シンドバットは未だに驚いた顔をしているのを見て、カシムは更に笑みを深めた。

「ここまで話たからついでに言うが、アイツがこの国を出て数年で異変が起きた。兄王達であるアブマドとサブマドが突然、王宮から一歩も出なくなった。王宮にいる知り合いにも聞いても一向に自分の自室から出てこないらしい、そんな二人に変わってある一人の男が現れてソイツがなにやら怪しい動きをしているらしい。最初は俺たちで何とかしようとしたんだ…貴族の力を借りても、どんな手を尽くしてもすべてアイツに潰されていった。」

ギュッと憎らしげに拳を握りしめるカシム、周りにいた霧の団の連中も同じような表情をしていた。

「そして俺たちは全員で話し合った結果、アイツならと呼び戻すことにしたんだ。」

それを聞いていたアラジンはひとり言のように一人の名を呼んだ。

「アリババくん・・・。」

カシムは深く頷いた。

「そう。だから俺らはアイツ呼び戻すために居場所の分からない奴を探すより、アイツ自身が俺らに気付くように仕向けようと思った。だから…俺たち霧の団が内乱を起こすと言う狂言を国中だけじゃなく他国にも言いふらしたのさ。」

そう言って笑ったカシムに一人の男が口を開いた。

「そんな幻想を描いているのですか?」

そのたった一言にカシム以外の霧の団はそう言った人物をギロリとにらんだ。

「ジャーファル・・・。」

それはシンドバットの従者の一人であるジャーファルだった。

彼は誰よりも冷静であるからこそ、そう言った事が嫌いな人間であった。

「貴方が褒めたたえているのはまだ子供です。そんな子供に絵本に出てくるヒーローみたいな事を夢見ているんですか?そんなの・・・」

だから他人に幻想を描いて助けを求める彼らに冷たい言葉をかけたのであった。

「ただあなた方が逃げているだけです。」

それを聞いた霧の団が今にも飛び出そうとしているのをカシムが手で制した。

そして真っ直ぐとジャーファルを見て言った。

「まぁ、普通はそう思うだろうな・・・でもな従者さん。」

ニヤッとした笑みを浮かべてカシムは笑った。














「アイツは正真正銘の物語のヒーローなんだぜ?」

バンッ!!

カシムとジャーファルが黙ったままの緊迫していた雰囲気に突然の来訪者が現れた。

現れたのは一人の少女、走って来たのだろう。息を切らしながら少女はカシムの元へと近寄った。

「兄さんッ!!今すぐアジトへ着て!」

現れたのはカシムの妹であるマリアムであった。

マリアムは焦った様子でカシムの手を取って立つように促した。

突然の事に一瞬だけカシムは目を見開いたが妹の様子に目をスゥッと細めて言った。

「どうした?」

冷静なカシムとは打って変わって動揺しているマリアムは口を開いた。

「アリババさんが来たの!」

その言葉にカシムは今までの冷静さが無くなった。

周りが驚く中、カシムはその場で立ち上がった。

「本当かッ!!」

「本当よッ!確かにアリババさんよ!今、アジトに来て兄さんを呼んでくれって・・・」

それを聞いた途端、カシムは部屋を飛び出してその後を追うように霧の団、アラジン、モルジアナと続きシンドバット達もその後を追ったのであった。

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