24
シンドバットは夜道をマスルールとジャーファルを連れて宿に帰っていく。
アラジンとカシムと言う少年は何やら宿で話をするらしく後日と約束をして別れたのであった。
そしてアラジンとモルジアナを先に返したシンドバットはしばらくスラム街で町の調査をしていたのであった。
「やはりシンの言う通りですね。貴族達は強欲のふりをして、得たお金で食糧などを買っては人々に配っています。」
そう言ったジャーファルにシンドバットは頷いた。
「やはりな・・・。」
どうやらサマブド達が言ったようにこの国全体で国が荒れているフリをしているらしい。
荒れているのは見た目だけで裏では人々は助け合って生きている良い国である。
そんな国がわざわざ、荒れたふりをしてでも呼び戻したい人物。
「アリババですか」
「たぶんそうだろうな」
カシムや国民のあの様子を見る限り、どうやら待ち人はアリババと言われる少年の事だった。
だがアラジンが言うにはアリババがバルバッドに向かったのはもう半年前。
もうとっくにバルバット入りをしている筈なのに姿を見せないと言う事はどういう事なのだろうか?
そう思いながら歩いているシンドバットは目の前に現れた人物に気付かなかった。
ドンッとした衝撃の後にズサァッと音を立ったのを聞いて、シンドバットはやっと前を見た。
そこには自分の目の前に尻もちをついて倒れている女性の姿があった。
シンドバットはすぐさま女性を起こすべく手を差しだした。
「スマナイ、御嬢さん。ほら捕まって」
そう言ってシンドバットが手を差しだしても目の前の少女は手を取らなかった。
その事を不思議に思っているシンドバットは首を傾げながら少女を見た。
暗くてよく見えないが、シルエットだけで女性だと分かった。
「ごめんなさい、私…目が」
少女の声が聞こえた時、マスルールの明かりが少女の顔を写した。
少女の目には痛々しい包帯が巻いてあり、シンドバットはその少女は目が見えないのだと理解した。
そしてシンドバットは自分から彼女の手を掴み、起こした。
「ぶつかってすまなかった・・・大丈夫か?」
そう聞いたシンドバットに目の前の少女はニコリと笑って答えた。
「大丈夫です、うろうろしていた私が悪いんですから」
そう言った少女の笑顔につられてシンドバットが笑うと、ジャーファルが不審そうな目で少女を見た。
「失礼ですけど、あなたは目が見えないご様子。そんなあなたが一人でなぜこのような時間に?」
そう言ったジャーファルの言葉にもその少女は気を悪くすることなく笑顔で答えた。
「一座の仲間とお使いに来たんですけど、ハグレちゃって・・・」
そう言う少女の言葉にシンドバットは気になる点があったので聞いた。
「一座・・・君は旅芸人か何かかい?」
そう聞かれた少女は相変わらずの笑顔でうなずいた。
「はい。私は一座で踊り子をやっています。いろいろ宿を回っているので、今度いらしてくださいな。」
とちゃんと宣伝までする少女にシンドバットは笑った。
そんな時だった。
ピーーーーーーーーーーーーー
なにか笛の音が聞こえ、一番に察知したのは少女だった。
「あっ!仲間が私を探してる」
そう言った少女に笛の音はどんどんと近づいてきて、目の前にはガタイのいい男がやって来た。
「ルタッ!!」
少女が男に飛びついた。
男は少女を抱き留め、その逞しい腕に少女を座らせた。
そしてシンドバット達の方を見て頭を下げた。
「彼はルタ、私と同じ一座の仲間で彼は剣舞が得意なの。」
そう言って笑顔でツレを紹介する少女、紹介された男はペコリと頭を下げた。
「ルタは喋れないの。だから私達はお互いを補っているのよ。ルタは私の目で私はルタの口なの!」
そう言って自慢げに言う少女にルタと言う男は少女をポンポンと叩いた。
「あっ!私達もういかなくちゃ。」
そう言って立ち去ろうとする彼らをシンドバットは引き留めた。
「待って・・・君の名前は?俺はシンって言うんだ」
振り返った少女は笑って名前を言った。
「私はアニスよ。じゃぁね、シンさん」
そう言って手を振る少女にシンドバットも手を振った。
「アニスか・・・・」
その呟きにジャーファルとマスルールの脳裏には嫌な予感がしたが、気にしない方向で行こうと決めた。
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