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そう叫んだ瞬間、アリババの背後の空気の流れが変わった。
ヒュンッとした音が聞こえた瞬間、アリババはバッとしゃがみ込んで頭上をかすめた足を見た。
(こわっ!やっぱファナリスって厄介だな。)
なんて緊張感の内容な事を考えならアリババはそのまま正面を見た。
そこには予想通りのモルジアナの姿があった。
キッとまるで親の仇でも見るかのようにアリババを見るモルジアナ、その後ろでは殺気をアリババに向ける領主。
そんな状況の中でもアリババは笑ったままだった。
ファナリスとただの人間、力の差は歴然なのにアリババはただ笑ったままだった。
そんなアリババの様子が気に入らない領主、目の前の男の笑った表情を崩したくて崩したくて、そしてモルジアナに命令した。
「モルジアナ、殺せ」
「ッ!!」
その重い言葉がモルジアナの耳に響いた。
重い表情を示したモルジアナだったが、すぐにキッと目を吊り上げてアリババを見た。
アリババはそれでも笑ったままだ。
その顔を見たモルジアナは驚き、目を見開いた。
それを見た領主、更に怒りを覚えてモルジアナを蹴とばした。
「早くしろッ!!」
「あっ!!」
ドカッ!!
蹴とばされた反動で転がったモルジアナはアリババの目の前で倒れた。
カァッ!!
倒れた先でアリババの顔を見上げたモルジアナは羞恥心に包まれた。
何故だかこの姿をこの人に見られたくないとモルジアナは思った。
そう思っても、領主は容赦なしにモルジアナを恥ずしめる行為を続けるのだ。
「能無しがッ!!能無しがッ!!」
ドガッ、ドガッ!!と何度も蹴られ、モルジアナは自分の頭を守るように…アリババから顔を隠すかのように蹲った。
それをただ見ていたアリババは笑っていた笑みを消して口を開いた。
『そのままでいいのか?モルジアナ…』
その声がやけに響いた。
『そのまま奴隷で居続けるつもりなのか?』
「えっ!」
「小僧、何を言っている!!」
領主の怒鳴り声など耳に入ってないかのように、アリババはただモルジアナを見て喋る。
『お前は戦闘民族ファナリスだ。そんな鎖、いとも簡単に壊せる』
「黙れッ!!」
『そんなバカな領主だって簡単に倒せる・・・否、殺せるさ』
「黙れッ!!」
『お前にとって鎖なんて無いような物なのに・・・。』
アリババはただ真っ直ぐにモルジアナを見つめていた。
『どうしてお前はそこから動かない?』
「・・・・・・・。」
『お前には自由に駆ける事が出来る足があるのに・・・。』
「黙れって言っているんだ!!」
領主はついにアリババに向かって走る。
アリババはやっとそこで目線を領主に移して足で領主の腹を蹴った。
ズサァッと領主は数メートル離れた所に倒れた。
腹を蹴られてせき込む領主、そんな領主の姿をモルジアナはただ見つめるだけであった。
『考えた事はなかったのか?』
「・・・・・・・・・・・。」
『自分を縛り付けるものがなにかを・・・』
「・・・・・・・何だっていうんですか?」
モルジアナは懇願するように、アリババに聞いた。
『それはお前だよ、モルジアナ。』
「え!!」
自分の名前が出るとは思ってないモルジアナは驚いた。
アリババはモルジアナの鎖を指さした。
『お前の縛るのはその鎖でも領主サマでもない・・・お前の恐怖心さ。モルジアナ』
『領主サマに対する恐怖心がお前を縛り付けて離さない・・・・お前はいとも簡単にその鎖を切って逃げられると言うのに』
モルジアナは自分の足にある忌々しい鎖を信じられない目で見た。
小さい頃は切れないと諦めたこの鎖が私には切れるのだろうかと思いながら・・・。
『もう一度、問おうか。モルジアナ・・・「お前は本当にそのままでいのか?」』
「・・・・・・・・・・・・・。」
モルジアナは何も言わない、恐怖心で体が震え、口も震え言葉にはならなかった。
それを見たアリババを口を開く。
『それでも尚、お前を縛る恐怖心があるのなら・・・俺が守ってやる。』
「・・・・・・・・・・・・・。」
モルジアナはアリババの真っ直ぐな瞳を見た。
まるで剣のように真っ直ぐな綺麗な目だとモルジアナは思った。
そして、いつの間にかに体の震えはなかった。
『領主からもお前自身の恐怖心からも俺がお前を守ってやる。お前が助けを求める限り俺がお前を守ってやる。助けてやる・・・・。だからモルジアナ』
『俺に助けを求めろ』
「・・・・・・・・・・・です」
それは本当に小さな言葉だったが、アリババの耳にはちゃんと届いた。
アリババは先ほどと違う、ニッとした笑みを見せた。
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