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地下の奥の奥の部屋にその男はいた。
豪華な椅子に座り、王のように踏ん反りかえるように座る姿はなんとも彼の雰囲気にピッタリだった
椅子に座り、執事から出された飲み物が入ったワイングラスの中をジッと見つめていたのであった。
コツコツコツ
常人では聞き取れない足音は、彼だからこそ聞こえるものであり。
それが誰だか分かった男は無表情を消してニヤリと不気味に笑ったのであった
『不死者王(ノーライフキング)、一つだけ質問していい?』
部屋に現れるなり、第一声がそれだった。
彼の新しい主である少女をその目に写して答えた
「何なりと…我が主(あるじ)」
重々しき威厳のある声を初めて聴いたインテグラは顔色を変えずに疑問を問うた
『あなたは…ヴァンパイアになった事に後悔はある?』
それは彼女だからこそ思う疑問であった。
彼女の前世があるからこその質問であった。
自らヴァンパイアになるため家族を犠牲にしようとした男を知っているからこその疑問であった。
そんな主の視線を一心に受けたノーライフキングは答えた
「そんな昔の事は忘れた」
一言で片づけられた。
まぁ、素直に聞けるとは思ってなかった彼女はその先なんと言葉を続けようかと悩んだ。
「だが・・・ヴァンパイアになって100年後にお前の先祖に倒された時、圧倒的な力の差があったと言うのに奴らは勝ち。私は負けた。」
そんな沈黙を破った男は更に言葉を続けた
「人とは諦めを踏破した瞬間になんと素晴らしいものかと思った。」
そうポツリと言ったのであった。
「私は人間でいられなかった弱い化け物だ…だから化け物はいつか人に倒されなくてはならないのだ」
そう言った男の言葉にインテグラは目を見開いた。
なんて奴なんだろう・・・。
自らヴァンパイアになった男。
その力の強大さも不死という素晴らしさを知っていると言うのに
人間に憧れるなんてッ!!
そうインテグラは内心、絶叫した。
これほどの男が、こんなにも誇り高い男が
なぜ、なぜヴァンパイアになったのかインテグラには分からなかった。
そして自然と顔に笑みが出来た
こんな男がいるのかと思った、面白さがこみ上げてきたのだ。
『神や国や領地や民や愛する人まで無くしてついには自分を無くした男…なにもないノーライフキング。我が父から贈り物を僭越ながら私が代行してお前に授けよう』
「ほう」
私の発言に以外そうに、面白そうに男は笑った。
これこそ彼には相応しい。
私をそれを授けるべく、口を開いた。
『アーカード』
それを口にした。
私が考えたただ一つだけの彼の“名前”
すべてを無くした哀れな王に
100年間、この家につかえた恩人に
感謝を込めて…父の代わりに送ろう。
『吸血鬼でありながら、人を崇拝する変わり者の貴方に私は尊敬と畏怖の念を持ってそう呼ぼう。』
驚いている吸血鬼をよそにインテグラはほほ笑み、吸血鬼に恐れることなく進み
冷たい頬に手を振れ、赤ん坊の誕生を祝福するように額に口づけを送った
あんなに怖かった赤い瞳が驚きに真ん丸と開かれているのを見て、思わず笑ってしまった
『AlucardはDraculaの逆綴りだ。ドラキュラでありながら、誇り高いあなたにピッタリな名前』
そう言ってインテグラは彼…アーカードから離れ、彼の前でお嬢様らしくスカートを掴んでお辞儀をした。
『初めまして。私の名前はインテグラ…インテグラ・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシングよ。あなたの名前は?』
そう言えば奴は不敵に笑い、その場で立ち上がった。
紳士のようにお辞儀をして、言った。
「私の名前はアーカードだ。ミス・インテグラ」
『いい名前ね、アーカード』
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