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「インテグラ、お前は名前で呼ばれるのが好きか?」

それは唐突に父に言われた言葉だった。

その頃の父は病に倒れたばかりで、なにか覚悟していたような目をしているのを私は知っていた。

『はい。自分が呼ばれるのは嬉しい事です』

私は素直に答えた。

何度生まれ変わって、名前が変わろうがそれは「私」なんだ。

名前を呼ばれることはとても嬉しい事だと、必要とされているんだと私は思っているからである。

そう答えると父は優しげにほほ笑んで、私に手を伸ばして頭を撫でた。

「インテグラ・・・。」

優しげな顔とは対照的なその声はとても泣きそうな声をしていたのであった。

『はい』

あの日の父の目は忘れられない。

誰よりも尊厳と威厳を持って、逞しく生きていた父の懺悔をするような罪悪感に染まった瞳であった。

「お願いだ・・・インテグラ。名前を・・・名前を奴に・・・」

『奴?』

父が何を言っているのか、なんの事を言っているのか私には分からなかった。

「私は奴が哀れで仕方がない…自分の信じる神や国や領地や民や愛する人まで無くしてついには自分を無くした彼が哀れで仕方がないのだ。」

父は誰かを思い出すように、ただ天上を見て言った。

「その寂しさを拭うように、闘争に明け暮れるあの男が哀れでしかたがない・・・あぁ、死に際になってやっと奴を理解したのだ。なんて哀れな男だと。どうしてもっと早くに気付いてやれなんだと。どうして私はまた彼から奪ってしまったと…考えたら悔やみきれないのだ。」

父はその彼に許しを請いているのだと私には分かった。

その人に父は心の底から申し訳ない気持ちで溢れているのだと、気づいたのであった。

天上を見ていた父は私を見て、懇願するように願った。

「本当なら私がやらねばならぬことだった…いや、ワシやその前の当主達がやる事だ。それをお前に託すのはどうしようもないバカだと分かっている。だが、お願だインテグラ。」

「奴に“  ”を与えてやってはくれないか。」





パチリ

まず目に入ったのは暗闇だった。

それは夜の暗さではなく、布団を被る事で光を遮った暗さだと思い出したのであった。

モゾッと寝返りをうって、しばらくボーっと暗闇を見つめていた。

『ウォルター』

名前を呼んだ。

「はい、なんでしょうかお嬢様」

一拍の間無く帰ってきた返事に驚くことなく、私は更に口を開いた。

『あの男は?』

「はい、地下に…もとはあの部屋は彼の部屋だったので、そのままに」

『そう・・・・。』

バサッと布団を退かした。

何時もなら寝癖がどうとかうるさい執事も今日はやけに静かな執事の目を見て言った。

『ウォルター彼には“  ”はある?』

その問いに彼はただ首を振るだけであった。

私をそれを見て、そのままベットから離れた。







『地下に行くわ』


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