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「お嬢様ッ、ご無事でございま・・・・」
もう動かなくなった叔父をインテグラ見ていれば、ウォルターが地下に現れた
何時もの飄々とした態度とは打って変わって焦った様子の彼はこの惨状を見てすべてを理解したのかその先はなにも言う事はなかった。
コツコツと革靴を鳴らして、インテグラの前に立ちそこに跪いた。
「申し訳ございません。お嬢様のお手を煩わすなど、このウォルター、一生の不覚。」
そう言って申し訳なさそうに頭を下げるウォルターにやっと目を彼に写したインテグラは口を開いた。
『いいよ。これは身内の問題だから、私がやるべき事だった。』
急に重く感じた銃を離せば、カシャンと大きな音を立てて地面に落ちた。
『もう外の化け物は倒したの?』
「はい、すべて・・・。」
それを聞いて安心してように笑ったインテグラは『ありがとう』と口にした。
ウォルターは目を見開いた。
この前まで、ただの子供だと思っていた少女がもはや当主の顔をしていたからだ。
(やはり、やはり間違っていなかった)
そう内心で想いながら、ウォルターは深々と主に頭を下げた
『…あなたもありがとう。叔父の銃弾から守ってくれて』
インテグラは自分を守るように前に突き出されていた手に触れてそう言った。
叔父を打つ時、撃たれると感じた叔父もとっさに応戦して撃った弾丸は彼が防いだのであった。
守られるように抱き込まれていたインテグラはその腕から離れ、振り返ってその男を見た瞬間であった。
化け物特融の真っ赤な目を見た瞬間、さっきまでの当主の雰囲気が一気に吹き飛んだのであった。
見る見る内に顔が真っ青になって行く姿は傑作だと後の執事は語るであろう。
だが、そんな事は今のインテグラの頭の中にはない。
ニヤリと笑っている男の口から除く、キラリと光る牙を見てインテグラは逃げ出した。
『忘れてたぁあああああああああああああああああああああ!!』
脱兎の如く…その言葉がピッタリな見事な逃げであった。
新たな主と一言も交わすことなく、逃げた主で出て行った扉を見て男は固まっていた。
そんな男の様子をもの珍しそうに見ていたウォルターは「フフッ」と小さな声で笑ってしまった。
だけど小さな声を聞き逃さない目の前のコイツには聞こえているようで、ギロリと赤い目でウォルターを睨み付けた。
昔ならよかったが、今の老いた自分では勝てる気がしない。
そう潔く感じたウォルターは降参のポーズで両手を挙げて、口を開いた。
「そう気を落とすなよ。お嬢様はお前が怖いんじゃなくて「吸血鬼」が怖いんだ。慣れれば普通に接してくださるさ」
そう言ったウォルターを忌々しく見ながら、男はフンッと鼻で笑った。
「誰が気を落とすか。別に私はどうも思って「どうも思ってないのならお前が目覚めるわけがない。いくら血を与えられようとそこにお前の意志がなくては意味がない」
男の心の内など手に取るように分かると言う風に得意げに笑っている。
「・・・・・・・・・。」
図星をつかれて男は黙った。
「素晴らしいお方だろう…あのお方は。あの方の生き様はまるで誇りを形に表しているかのようだ。」
たとえ現在、布団の中で縮こまって『吸血鬼怖い、吸血鬼怖い』とブツブツ呟いている少女だろうが
それでもウォルターは、アーサーは、アイランズは、ウォルシュは…彼らは見出していたのだ。
彼女だ、彼女こそが相応しい。
人である事、生きる事、仕事、性別、宗教を全部自分の誇り一部として生きている
まだ幼さから凡人にはその才能は見いだせないだろう。
だから今回、この屋敷のほとんどが彼女ではなくリチャード側に付いたのだ
なんて馬鹿な連中なんだろう。
彼らには分かっていた、彼女の才能を。器を、素質を。
だから自分達がもてる技術のすべてを与え、そして10歳という若さで習得したのだ
圧倒的なカリスマ性と力を持った彼女は誰よりも、まっすぐに生きていた。
前の主である彼女の父は言った。
「あの子は凛として咲く花のようだと…きっと死ぬときはああして立派に立ち続けるのだろう。」
そう、それはまるで・・・・。
「立ち枯れの花のように」
彼女の生き方はとても美しい、だからこの男は彼女を助ける気になり復活したのだとウォルターは確信していた。
自分がそうであるように、彼もそうだろうと確信していたのであった。
人間だけではなく、化け物でさえも魅了する女。
それが彼らの唯一無二の主であった。
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