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私の一声でまるで蜘蛛の子散らすように去って行った者達を見送って、最後に残ったのはオスカルとジェローデルだけだった。
『はぁ〜。』
私は一気に来た気だるさに大きなため息を吐いた。
下をうつむいて数秒間だけ目を閉じた。
パッと目を開いて前を見て、オスカルとジェローデルの姿を瞳に写した。
『ジェローデル、あなたはここにいて陛下をよろしくお願いします。またあの者達が現れたら私の権限で追い返しなさい。』
私がそう言えば、それまで唖然としていたジェローデルは姿勢を正して「ハッ!!」と威勢よく返事した。
私はその威勢良い返事に笑顔で答え、今度はオスカルを見た。
『オスカル。私と来なさいな・・・』
そう言って私はオスカルの返事を待つことなく、彼の横を通り過ぎた。
私とオスカルはお互いただ黙ったまま歩いて行った。
ベルサイユ宮殿の庭に出れば、私の目当ての人物がそこに居た。
「陛下ッ!陛下ッ!!」
もう死んでしまった人物の名前を必死に呼ぶのはデュバリ夫人だった。
彼女は死を間際に今更、天に恐れをなした陛下の意味のない懺悔のために捨てられたのだ。
まぁ、彼女らしいと言ったら彼女らしいだろう。
今まで彼女はそう言って多くの人間を捨て置いたのだ。それも当然の結果だろう。
必死に抵抗して陛下のを呼び続ける彼女に苛ついた兵士は彼女に手をあげたのだ。
『オスカル・・・。』
私が静かに名前を呼べば、オスカルは瞬時に理解したように剣を抜き、今にもムチで叩きそうな兵士を切りつけた。
もちろん兵士の服だけ切りつけるだけの技術を彼は持っている。
「アントワネット様の御前だ、身を慎め。」
その声に振り返った兵士は私の存在に気づき、その場に跪いた。
デュバリ夫人も私の存在に気づき、驚くのも後に私の前に駆け寄って私のドレスの裾をギュッと握った。
「アントワネット様ッ!!」
今までの彼女の行動から考えも出来ないしおらしい様子だ。
それほどまでに彼女は必死なんだろうと私は思った。
「今までのご無礼をお詫び申しますッ!だからッ!!だからッ!!」
そう言って私のドレスにをギュッと引っ張りながら顔を擦り付ける様子を見てオスカルが動き出そうとするのを私は手で制した。
そして私は彼女をあざ笑う事も、優しく慰める事もせずにただその場に立ったまま見下ろした状態で口を開いた。
『だから?・・・だから何だと言うのです?今までの非礼を詫びるから、私もあなたの非礼を許してこれからもずっとベルサイユに暮らさせて贅沢な暮らしをさしてくださいとでも?』
私がそう言えば彼女は嗚咽を漏らしながら泣きだした。
私はその彼女を見て、口を開いた。
『・・・・いいでしょう。』
私の発言に驚いたデュバリ夫人は顔を上げて、オスカルは驚きの声を上げた。
「アントワネット様ッ!!」
希望の光がチラチラと光りだした彼女の目を見つめて、私は静かに言った。
『私に対する非礼は許しましょう、そんなの取るに足らない事です私は気にしません。』
「それなら!!」
喜びに声がはずむデュバリ夫人を見て私は優しくほほ笑んだ。
『あなた…は自分がこの数年間で得たドレスは宝石の数を知っていますか?あなたが自分の独断で選んだ大臣たちの横領額は?いったい幾らになるか…想像したことはありますか?』
「・・・・・・・・・・・。」
私が唐突に言った質問に彼女は意味が分からないと言った表情でいた。
答える気がないと分かった私は更に口を開いた。
『じゃぁ、値段は分からなくても…それでパンが何個買えるか?そのパンを必要とする人が何人いるか?それを考えた事はありますか?』
「・・・・・・・・・・。」
これも答える事はしてくれないらしい。
『では、あなたは我が国が一日でいったい何人が飢餓で死んでるか知っていますか?』
私が言葉を口にするたびに彼女の顔色は悪くなっていった。
もう私は彼女の返事を求めていなかった。
『知らないでしょうね…いったい何十人、何百人の人間が貴方のドレスのために宝石の為に死んでるなんて。知らないんだから出来るんでしょうね』
震える彼女の手、私はそんな事気にするはずもなく容赦なく彼女にいった。
『私があなたの罪の一つを許そうとしても…国民はあなたを決して許そうとしない。』
私がそう言った瞬間、彼女はグワッと私を睨みつけた。
あっと思った瞬間には彼女はさっきまでの泣き顔を一瞬でやめて私に掴みかかろうとしていた。
だけど彼女が私に触れようとするその前にオスカルが彼女を羽交い絞めにして留めたのだ。
デュバリ夫人の化けの皮が剥がれた女はさっきまでの気品を残していた表情を止めて、やっと人間らしい顔になって叫んだ。
「お前になにが分かるッ!!明日のパンを心配した事がないお前なんかに私の気持ちのなにが分かるッ!!今まで私はずっとみじめな生活を贈ってたんだッ!だから私は必死でなんでもした。悪い事や男に体を売る事だってッ!!そうやってやっと手に入れた地位で贅沢して何が悪いッ!!自由に生きて何が悪いッ!!人を娼婦だなんだって弱い人間はそうするしか生きていけないんだよッ!だから偉そうに美味いもん食ってる奴らに私は復讐してやりたかったッ!!私はお前らみたいな奴らが大っ嫌いだ!!」
『そう言ってあなたがやって来たのはその大っ嫌いな奴らとしている事の何が違うの?』
「・・・・・・・・・・。」
私の発言に彼女はまた口を閉じた。
『結局あなたは誰一人にだって復讐できてないじゃない。結局あなたがやっているのはそいつらと何も変わらない。大っ嫌いって中に自分も入っているの?』
「じゃぁ、私はどうすればよかったんだよ!!権力もお金もない私はどうすればよかったんだよ!!」
『今からでも復讐、やってみる気はない?』
「ハッ!・・・どうやって?」
『その私利私欲の貴族共を私と一緒に一気に没落させてみない?』
「は?」
『私は貴方に新しい人生を与えてあげる。戸籍もあげる、家もあげる。新しい人間として貴方に新しい人生をあげる。』
私は手を差しだした
『あなたに復讐のための力を私があげよう・・・。』
(イメージ的に彼女はきっと二度と、アントワネットに会う事はないだろう。
ただアントワネットの駒として彼女は情報を得ては手紙で文章を送るか、ハルトが聞きに行く形。
きっとそんな関係が二人には合う。給料はアントワネットが出す。誰も町中にデュバリ夫人がいるとは思わないだろう)
「あとがき」
絶対に裏切らない信用できる仲間を作りたかった王女様(仮)
信用はするが信頼にたる人物ではない。
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